ぼくらは群青を探している
「……つか俺が気付いてんだから蛍さんも気付いてんだろ」

「……そういえば」


 あの時、蛍さんの視線が動いた先が分からないことがあった。あれはもしかして床に落ちている煙草の不自然さに気付いていたからだったのかもしれない。


「……何も言われてないけど、雲雀くんと同じ観点から気付いてる可能性はある」

「……どっちかいうと俺はお前があんだけ怯えたから気付いたけど。煙草の不自然さなんて、後から考えればそういうことだったくらいの話だ」


 ……それなら、蛍さんは気付いていない? 確かに、気付いているのなら新庄に何もしないのは妙だ。……自分で言うのもおかしいけれど、廊下でほんの些細な私の陰口を叩いた三年生の顔を蹴るくらいだ、新庄の行動を知っていれば何か仕掛けるほうが自然。

 ただ、蛍さんが新庄と手を組んでいるのなら話は別だ。蛍さんが私を気に入っているように見える言動は全て何かのカムフラージュ……。


「……新庄ってなんで(ディープ・)(スカーレット)に入ってるの?」

「急に話が変わったな」

「ご、ごめん……」

「……俺も知らねーよ。(せい)(らん)学園に入って、そんでそこ仕切ってるのが深緋(こきひ)でってだけじゃねーの」


 群青や白雪と同じように、界隈の人達は深緋と書いてコキヒと読んでいるのだろう。

 ただ、それは今はどうでもいい。


「……蛍さんと新庄が仲がいい可能性は?」


 意図を理解したのだろう、雲雀くんの表情が(けわ)しくなった。


「……蛍さんのこと疑ってんのか」

「や、その、疑うってほど明確な何かがあるわけじゃないんだけど……。桜井くんと雲雀くんが群青に入って得をするのは蛍さんだから……」


 新庄の行動も含めて考えて、仮説の筋が通るから――。私が立てた仮説も含めて説明すると、雲雀くんは少し考え込むように目を伏せた。


「……まあ、筋は通るな」

「……だから聞いただけ。明確に怪しいことを言われたわけじゃない」

「だったらなんで蛍さんを疑った? きっかけはあったろ」


 その問いかけで頭の中でサッとあの日のアルバムを整理する。バイクの上に座る私を抱きかかえた蛍さん……。


「……蛍さんから煙草の臭いがしたから」

「……蛍さんから?」


 煙草嫌いの蛍さんからするはずのない煙草の臭い。あれが新庄のものと同じだったかは分からないけれど、少なくとも不審さを抱くには充分だ。

 ただ雲雀くんは「なんだそんなことか」と手をパタパタと横に振った。


「大丈夫、群青も全員が全員煙草吸わないわけじゃない。多分それ能勢さんだ」

「……え」


 思わぬ指摘に目を丸くしてしまった。群青のメンバーには禁煙が義務付けられているとばかり思っていた。それどころか、No.2の能勢さんが喫煙者だなんて。


「能勢さん……、煙草吸うの?」

「ああ。蛍さんはイヤがってるけどな。その代わり能勢さんの近くにいて煙草臭いって思ったことねーよ、ブレスケアとかちゃんとしてんだろ」


 そっか、あの日の蛍さんに煙草の臭いがついていたのは能勢さんが吸うからか……。確かに、煙草の臭いがつくということは少なからず蛍さんの近くで煙草を吸っていた人がいるということだ。いくら手を組んでいると言ったって、一年生の新庄があたかも対等であるかのように蛍さんの隣で煙草を吸えるはずがない。

 なんだ、私の思い過ごしか……。いや、まだ可能性は排除しきれていない。きっかけが考えすぎだったというだけだ。


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