ぼくらは群青を探している
「……ま、蛍さんを疑わない理由はないけどな。正直、三国のこと気に入ってんのは謎だし」
「……あれ本当に気に入ってるのかな」
「ただ利用されてんじゃないかって?」雲雀くんは首を傾げて「……まあ今回のことはともかく、利用することねーだろ」
「……私も私に利用価値があるとは思ってないけど」
「別にそこまで言ってねーけど」
「……謎が深い人だなってだけ」
はあ、と息を吐き出して残りのカフェラテを少し啜った。水とカフェラテが分離していたので軽く振ってから飲み干す。
「……いまの話、桜井くんに内緒ね」
「……別にいいけどなんで」
「……桜井くん、顔に出るから」
「……今も出てなけりゃいいけどな」
問題の桜井くんから電話があったのは、それから少し経ってからだった。
「《あー、もしもし、三国ぃ?》」
いつもの調子で、なんならちょっと困った様子だった。
「《あのさー、ちょっと侑生と一緒にGround-0の前まで来てくんない?》」
「……なにか不測の事態でも?」
「《うーんまあそんな感じ。あ、てかホテルの前で補導されるとめんどいな。近くにいるよな? ちょっと今から言うところ来て》」
テーブルを挟んだ向こう側の雲雀くんは怪訝な顔をしている。でも私だって何が起こったのか分からない。
「……三国、ちょっと代わって」
「ん」
「昴夜、なにかあったか」
「《あー、大丈夫、俺が身動き取れなくてお前ら呼び出すってのじゃないから》」
雲雀くんは少し警戒心を露わにしたけれど、電話の向こうでは桜井くんの明るい声が聞こえる。さすがに何かあればもう少し合図らしきものを入れるだろう。
「……分かった、どこ行けばいい」
電話の向こうから桜井くんに指示され、私達はGround-0からもう一本外れた通りに行くことになった。その通りは街灯が少なく「侑生、三国」と呼ばれて振り返れば、ちょっと小汚い路地から桜井くんが手招きしていた。その後ろにはなぜか美人局っぽい三人組がいる。
「……何してんだお前」
「いいから、ちょい聞かれると面倒だからこっち」
美人局に脅されているわけでもなさそうだし、なにか問題でも……? 招かれるがままに路地に入った私と雲雀くんは顔を見合わせたのだけれど、桜井くんは腕を組んで難しい顔をした。
「あのさー……えーっと簡単に説明すると……美人局違い?」
「は?」雲雀くんは呆気に取られて「……つまりお前、別の美人局捕まえたってことか?」
「そう」
桜井くんが神妙な面持ちで深く頷くと、背後の男子二人 (ドクターコーヒーにいた人達だ)が「すみません!」と揃って頭を下げた。女子は膨れっ面をしていたけれど、男子の一人 (なぜか目が赤い)が小突いて謝らせようとして「ほらお前も謝れよ!」「やだよ、だからやめとこってアタシ言ったのに」「嘘吐くんじゃねーよ! お前がやろうって言い出したんじゃねーか!」そのまま仲間割れを始めた。
「……桜井くん、なんで別の美人局って分かったの?」
「払えって言う金が五万だからおかしいなと思って。で、肩小突かれたから胸座掴んでちょっと突き飛ばしたら泣いた」
「だめだよ胸座掴んで突き飛ばしちゃ!」
思わずツッコミを入れずにはいられなかった。というか小突かれたから胸座掴んだってなんだ、蛮人なのか。……いや桜井くんと雲雀くんはそういう人だった。むしろ殴らなかっただけ偉いと褒めるべきなのかもしれない。
「……あれ本当に気に入ってるのかな」
「ただ利用されてんじゃないかって?」雲雀くんは首を傾げて「……まあ今回のことはともかく、利用することねーだろ」
「……私も私に利用価値があるとは思ってないけど」
「別にそこまで言ってねーけど」
「……謎が深い人だなってだけ」
はあ、と息を吐き出して残りのカフェラテを少し啜った。水とカフェラテが分離していたので軽く振ってから飲み干す。
「……いまの話、桜井くんに内緒ね」
「……別にいいけどなんで」
「……桜井くん、顔に出るから」
「……今も出てなけりゃいいけどな」
問題の桜井くんから電話があったのは、それから少し経ってからだった。
「《あー、もしもし、三国ぃ?》」
いつもの調子で、なんならちょっと困った様子だった。
「《あのさー、ちょっと侑生と一緒にGround-0の前まで来てくんない?》」
「……なにか不測の事態でも?」
「《うーんまあそんな感じ。あ、てかホテルの前で補導されるとめんどいな。近くにいるよな? ちょっと今から言うところ来て》」
テーブルを挟んだ向こう側の雲雀くんは怪訝な顔をしている。でも私だって何が起こったのか分からない。
「……三国、ちょっと代わって」
「ん」
「昴夜、なにかあったか」
「《あー、大丈夫、俺が身動き取れなくてお前ら呼び出すってのじゃないから》」
雲雀くんは少し警戒心を露わにしたけれど、電話の向こうでは桜井くんの明るい声が聞こえる。さすがに何かあればもう少し合図らしきものを入れるだろう。
「……分かった、どこ行けばいい」
電話の向こうから桜井くんに指示され、私達はGround-0からもう一本外れた通りに行くことになった。その通りは街灯が少なく「侑生、三国」と呼ばれて振り返れば、ちょっと小汚い路地から桜井くんが手招きしていた。その後ろにはなぜか美人局っぽい三人組がいる。
「……何してんだお前」
「いいから、ちょい聞かれると面倒だからこっち」
美人局に脅されているわけでもなさそうだし、なにか問題でも……? 招かれるがままに路地に入った私と雲雀くんは顔を見合わせたのだけれど、桜井くんは腕を組んで難しい顔をした。
「あのさー……えーっと簡単に説明すると……美人局違い?」
「は?」雲雀くんは呆気に取られて「……つまりお前、別の美人局捕まえたってことか?」
「そう」
桜井くんが神妙な面持ちで深く頷くと、背後の男子二人 (ドクターコーヒーにいた人達だ)が「すみません!」と揃って頭を下げた。女子は膨れっ面をしていたけれど、男子の一人 (なぜか目が赤い)が小突いて謝らせようとして「ほらお前も謝れよ!」「やだよ、だからやめとこってアタシ言ったのに」「嘘吐くんじゃねーよ! お前がやろうって言い出したんじゃねーか!」そのまま仲間割れを始めた。
「……桜井くん、なんで別の美人局って分かったの?」
「払えって言う金が五万だからおかしいなと思って。で、肩小突かれたから胸座掴んでちょっと突き飛ばしたら泣いた」
「だめだよ胸座掴んで突き飛ばしちゃ!」
思わずツッコミを入れずにはいられなかった。というか小突かれたから胸座掴んだってなんだ、蛮人なのか。……いや桜井くんと雲雀くんはそういう人だった。むしろ殴らなかっただけ偉いと褒めるべきなのかもしれない。