ぼくらは群青を探している
「いや……あの……マジで桜井さんだったとか知らなくてすみません……」目が赤いほうの男子がボソボソと「あの……マジでちょっと小遣い稼ごうとしただけなんで……もう二度としないんで」

「だからさぁ、俺の話聞いてた? 俺達はお前らが美人局やろうとしたことなんてどうでもいいわけ。お前らだったことが問題なんだよ」


 桜井くんの言うとおりだ。いや、桜井くんのお陰で潜在的な被害者が生じずに済んだのかもしれないけれど、このままでは中津くんという最大の被害者が救われない。

 桜井くんがほんの少し苛立ったのはそれが理由だったのだろうけれど、この美人局三人組からしたらそんなことは知ったことじゃない。桜井くんが怒っているという事実だけで充分すぎる威迫(いはく)になってしまったらしく「マジですみません!」……土下座を始めた。一人が始めたせいでもう一人も慌てて「すみません!」とその場に正座した。


「いやもう本当にスミマセン! 俺ら本当に桜井さんと雲雀さんって知ってたらスルーしてたんで!」

「まさか桜井さんが頭染めて張ってるなんて思ってなかったし」

「雲雀さんもバックにいたとか……」


 そうやって口々に謝る二人の隣で、女の子はくるくると綺麗な黒髪を(もてあそ)んで我関せずだ。なんならちらりと桜井くんを見て「てか桜井くんなら全然いいよー」と一人だけ方向の違う返事をした。


「てかそっかー、張ってたから何もしてくれなかったんだ。キスしてくれてよかったのにー」

「あーすいませんちょっと黙ってもらっていいですか」


 桜井くんは大声で遮ったけど時既に遅しというやつだ。でも桜井くんがおとりをやる羽目になったのは半分私のせいだから聞かなかったことにした。


「キスくらいしてもよかったんじゃね」でも雲雀くんが蒸し返した。


「なんでそんなこと言うんだよ! 三国の前だぞ!」桜井くんは当然憤慨した。


「落ち着いて。私は気にしないから」


 だからフォローしたのだけれど、桜井くんはムッと眉間に皺を寄せた。むむ……と少し考えこみ「……三国が気にしないならいいけどなんか気になる、俺が気にする」とそのまま腕を組んで考え込む。いつもの桜井くんなので気にする必要はないだろう。


「そんなことより、私達の計画が狂ったほうが問題だと思う。っていっても、もともとスケジュールは厳しかったし、二日やそこら張っただけで本命に当たるかどうかなんて元から希望的観測込みの話だったから狂ったってほどのことじゃないかもしれないけど」

「待って、いまなんか現代文の教科書読まされた気がした。もう少し分かりやすく言い直して」

「要はこの人達は関係がないから時間を取られるだけ無駄だよねって話」

「そうでもねえよ、三国」


 おもむろに、雲雀くんは土下座をしている一人の肩に足を乗せた。隣に立っている私がその乱暴な足に硬直するのにも構わず、なんなら雲雀くんはまるで脅迫を楽しむように口角を吊り上げてみせた。


「お前ら、最近始めたんだろ? 昴夜にちょっと胸座掴まれてビビり倒すくらいのヤツが何回も美人局成功してるわけねーからなあ」


 そのまま雲雀くんの足は相手の肩をグラグラと揺らす。桜井くんだけならともかく、雲雀くんまでが出てくると悪鬼と羅刹に挟まれているのに等しいのだろう。途端に男子二人が揃って震え始めた。


「いや……あの……」

「誰に入れ知恵されたんだって聞いてんだよ。つか学生証出せ」


< 144 / 522 >

この作品をシェア

pagetop