ぼくらは群青を探している
「お前らのテリトリーで女子二人にするわけにはいかねーだろ。要はその女と顔合わせなけりゃいいんだろ、俺らは外にいさせてもらう」


 その「俺ら」の中に含まれているのは、蛍さん、能勢さん、桜井くんに中津くんだ。中津くんはともかくとして群青の精鋭が揃っているに等しいその状況に、白雪の男子は「ふーん……」と呟くような返事をした。


「そんなぞろぞろいられても怖いと思うんだよね。サッカー部の部室はここだから、そこの二人だけ上に来な」

「部室の前にいるのはいいだろ」

「外にぞろぞろいても怖いと思うって言っただろ、特に蛍。お前らは下だ」


 蛍さんは雨の中で小さく舌打ちした。想定通りではあるのだろう。


「……雲雀、よろしくな」


 雲雀くんは無言だった。さすがに声が可愛くなさすぎるので今日の雲雀くんは無言を()いられている。

 カンカンカンと音を立てながら、私達は外階段を上る。雲雀くんはロングスカートなのでスカートを踏みそうになり、余計にイライラしているのが背中から見ていてよく分かった。本当に役損だ。


「じゃ、そこの四人は外で待ってて」


 私と雲雀くんだけが招き入れられ、背後でバタリと重たく古い扉が閉められた。ドクリと緊張で心臓が跳ねる。

 サッカー部の部室は、両脇の小汚い棚や、隅に追いやられている用具入れを見る限り、ごく普通の部室だった。

 その代わり、交渉のために用意されたかのように、真ん中には小汚い二人掛けのソファがテーブルを挟んで向かい合っていた。入口から遠いほうのソファに男と女が座っている。きっと美人局の実行犯とその彼氏か何かだ。その彼氏と私達に声をかけた男子含めて、部室内に男子が四人いる。

 嘘だとは分かっていたけど、怖くて男子と話せないって嘘じゃん……。

 そんな怪しい人達と同じ空間に閉じ込められるなんて恐怖しかない。


「オイ早く座れよォ!」


 ない、けれど。早速怒鳴られて、肩を震わせながらも大人しくソファに座るしかなかった。ちなみに当然のことながら雲雀くんは全く動じず、なんなら「うるせーサルだな鳴くなら動物園でやれ」とでも聞こえてきそうな態度だった。無言だったけれど。


「で?」


 そのサル山のボスザルっぽい人 (多分今津だ)は、ソファの背に腕を預け、不遜な態度で座っていた。真ん中に座っている女の子は、そんなサル集団の中にいるとは思えないくらい清楚というか、真面目そうな見た目だった。パーマも何も当ててない綺麗な長い黒髪に、短すぎない膝上のスカートと、きちんと結ばれたリボンタイ――それだけを見るとこちらが悪者のように思えてしまう。

 ただ、顔を見ているととても気弱そうには見えない。吊り上がった細い眉のせいかもしれない、睨むようにこちらを見る大きな目のせいかもしれない。コアがどれであるかは別として、その顔にある要素からは気の強さばかりが伝わってくる。多分私のほうがよっぽどおどおどしている。


「金払えって言ったよな? ボーッとしてないでとっとと出しな」


 完全に恐喝だ……。隣に雲雀くんがいると分かっていても背筋を震わせずにはいられなかった。膝の上に置いていた手が震え始めてしまったので慌てて拳を握った。

 来る前に能勢さんに言われたことだ。「大体ああいうヤツは論理も理屈もへったくれもなくて、強くそれっぽいこと言えばいいと思ってるんだから、ナメられたらおしまいだよ」――怖いなんてバレてはいけない。

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