ぼくらは群青を探している
「ところでその、えーっと何さんなんですっけ」


 美人局さんを見ながら促すと「園田(そのだ)だけど」と苛立たしげに名乗られた。


「園田さんって、学校来てます?」

「は?」

「学校、来てる人なのかなって。制服着てるから来てるんですよね」

「来てるけど、それがなに? てか五十万払えって話じゃん、今は」

「連れ込んだ証拠を出してから言ってください」

「あたしがやられたって言ってんだけど?」


 それは怒鳴り声に近かった。思わず肩が震えそうになるのを、拳を握って堪える。


「そうやって、被害者のいうこと疑うんだ? あたしがどんな思いだったか分かる? ちょっと普通に喋っただけで勘違いされて連れ込んで無理矢理犯されそうになったんだよ!」

「……怖いですね」

「だったら――」

「ところで信用してる男友達なら話せるって言ってましたけど、総じて男性不信になりませんでした?」


 園田さんは、面食らったように言葉に詰まった。


「仲良くしたら、好きだと勘違いされて連れ込まれたんですよね。他の〝信用してる男友達〟もそうなるんじゃないかと思いませんでしたか」

「それは信用してるからならないんだよ」

「こんなに男しかいない密室で私を待つのは怖くなかったですか」

「……信用してるから」

「信用してる男友達はこれで全部ですか」

「……まだいるけど」

「私が信用してる友達の数は同性でも片手が埋まらないんですけど、何人いるんですか?」

「みんな(スノウ・)(ホワイト)の幹部だから」

「ところで学校に来てるって話してましたけど、怖くなかったですか?」


 園田さんはいよいよ眉を顰めた。私の喉はカラカラに渇き始めている。でもまだ正念場(しょうねんば)すら来ていない。


「不特定多数の男の視線に(さら)される学校って、怖くなかったですか」


 園田さんの表情は動かなかった。俗に言う図星をつかれて固まった結果だった。

 嘘なのは分かっているのだ。それなら気後(きおく)れすることなんてなにもない。そして所詮同い年の子供が考えることなんて詰めが甘いし杜撰(ずさん)に決まってる。そうとなればその嘘を崩すのは当然に簡単だ。


「さっきからゴチャゴチャ言ってるけどよォ、要は金払うつもりがないんだろ?」


 ドン、と今津が足を机に上げた。

 嘘を崩すのは簡単だ。ただ、この人達が論理と理屈で納得する相手であるかは別。


「言ってるよな、五十万払わないなら警察駆け込むって。いいよ、帰りな。俺達は警察行くから」

「警察行って、どうするんですか?」

「あ?」

「警察行く、警察行くってずっと言ってますけど、それってなんなんですか?」


 パチンと携帯電話を開いて見せる。そこには中津くんに送ってもらった動画がある。


「なんでこんなに都合よく動画を撮ることができたんでしょう」

「コイツがさァ、よく男に連れてかれんだよ。だからなんかあったらちゃんと動画撮っとけって言ってんだ」

「本当に?」


 ドキリドキリと心臓がうるさく鳴っていた。園田さんを親指で示す今津の前で、携帯電話を振る。


「男に連れて行かれたら動画を撮るように伝えていたから、撮ることができた?」

「そーだよ」

「じゃあこれは部屋に連れ込まれた後にセットして撮ったんですね」

「そうだつってんだろ」

「間違いない? 園田さんが身の危険を感じて咄嗟にセットした?」

「何回も言わせんじゃねえ、さっきから何が言いたい?」


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