ぼくらは群青を探している
 それなのに、当の二人は知らん顔だ。雲雀くんは椅子に座ったまま、桜井くんは雲雀くんの机に座ったまま、横柄な態度で振り返る。


「……なんですかァ?」


 桜井くんのその返事は、まだ声変わり前の甲高い声だったせいで、セリフ以上に煽り強く聞こえた。当然、怪物のこめかみには青筋が浮かび――ズンズンと二人の舎弟を従えたまま教室の中に入ってきた。


「なんですかァ、じゃねーんだよ」


 二人がいるのは、教室のど真ん中。怪物一人に、その手下二人も、教室のど真ん中で桜井くんと雲雀くんを囲んだ。

 桜井くんと雲雀くんの目つきが、少し変わる。桜井くんの顔からは、あどけない子供っぽさが消え、まるでエサを奪い合う野良犬のような顔つきになった。雲雀くんは、まるで狩場に来た狼のようだった。


「……三年が雁首揃えて何の用だ?」


 さながら、その問いかけは威嚇。


「何の用だもクソもねーだろ」手下その1も威嚇し返すように首を鳴らし「オメー、灰桜高校(はいこう)に入ったのに群青(ブルー・フロック)に挨拶もなしか?」

「俺、代わりに挨拶したぜ」と桜井くんは事もなげに頷いて「入学式前に裏門に溜まってただろ?」

「ああそうだな、テメーが随分な挨拶してくれたんだよな」


 その所業と態度が怪物の怒りを買ったらしく、怪物は強さを見せつけるように腕を組んだ。


「聞いたぜぇ、急に来て、友達と待ち合わせしてるから退けだァ? 礼儀がなってねー、分かるよな?」

「嘘、嘘。俺が侑生(ゆうき)を待ってたら、二年だか三年だか知らねーけど、何人かが西中の桜井だ!って襲ってきたんだよ」

「言い訳は聞いてねーんだよ」


 怪物がドン、と足を踏み鳴らした。やって来たときと同じく、地響きがした。


「テメェが手出したのは群青(ブルー・フロック)の二年だ。どうなるか分かってんだろうな」


 バキボキと怪物が指を鳴らす。ありがちな威圧なのに、その体格と顔つきと態度のせいで、鬼婆(おにばば)も裸足で逃げ出す威圧感があった。そんな怪物の体の半分しかなさそうな桜井くんは、鬼婆にさえ食われてしまいそうな少年にしか見えなかった。つまり力関係は歴然としていた。


「どうなるか、ねえ」それなのに桜井くんはニヤニヤ笑って「群青(ブルー・フロック)からのラブコールがもっと増えるのかな?」


 群青(ブルー・フロック)は二人を欲しがっている――ついさっき陽菜から聞いた話は本当らしい。


「調子乗ってンじゃねぇぞ」手下その1が(すご)みながら「永人(えいと)さんがお前らを誘ってんのは、群青(おれたち)灰桜高校(はいこう)で好き勝手されちゃ迷惑だからだ」

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