ぼくらは群青を探している
『美人局やれば小遣い稼げるって? なんでわざわざ教えたんだろ』

 桜井くんは首を傾げた。確かに、ご丁寧に自分達の犯罪の手口を教えてあげるなんて、普通に考えれば百害あって一利なしだ。下手をすれば林くん達に脅迫のネタにされる可能性がある。

 ただ、その点は白雪の幹部である今津くんとそうでない林くん達との力関係により解決するのだろう。そうだとすれば、考えられる理由は一つ。

『……()(くら)ましに使いたかったんじゃないかな』

『目晦まし?』

『自分達はもう充分なお小遣い稼ぎを終えたから、さっきの林くん達に美人局を始めさせて、今まで自分達がやった美人局も全部林くん達がやったことにしたかったんだと思う』

 何がそう考える契機となったのか、はたまたある程度やったから潮時だと考えたのかは分からない。ただ、中津くんという群青のメンバーを引っ掛けてしまったことが、彼らにとって誤算だった可能性はある。蛍さんの口ぶりからすれば、白雪のNo.1だという芦屋さんはこのことを知らないはずだ。蛍さんが前面に出てきたり、No.1にお灸をすえられたりする事態は避けたいだろう。

『うへえ、あくどいな。だから同じホテル使ってんだ。もしかしたら部屋も同じかもな』

『……部屋といえば、アイツら、最初から使う部屋決めてるって言ってたな。動画ミスったら使えないから毎回同じ部屋の同じ場所から撮れるようにしろって教えられたって……』

 雲雀くんの声は段々と小さくなり、何かを考えようとしているようだった。それをヒントに考えると、確かにひとつ辿りつく方法があった。

『……ね、中津くんの動画……を見せてくださいとは言いたくないんだけど、動画に音が入ってるか確認したい』

『音?』

 何のこっちゃ、と桜井くんは眉を顰めたけれど、雲雀くんはそう言うならと携帯電話を取り出す。

『俺らで見るから、聞きたくないなら耳塞いどきな』

 正直聞きたくなかったけれど、聞いておいたほうが話を進めやすいので首を横に振った。桜井くんと雲雀くんは顔を見合わせ『中津かわいそうに』『まあ黙っとけばいいだろ』と早々に中津くんのプライバシーを切り売りすることに決めた。

 でも全部を見る必要はない。確認するのは、いつから動画が始まっているかということと、音声まで入っているのかということだけだ。

 雲雀くんと桜井くんの間に挟まれて中津くんの動画を再生してもらう。スタートは誰もいないベッドだ。物音は……あまりしない。

『これ音量最大?』

『いやまだいける』

『最大にして最初から再生してもらっていい?』

『本当に中津どんまいだな。三国に聞かれて見られてかわいそっ』

 もう一度最初から再生してもらうと、パタだかガタだか小さな音が入っていた。人が喋っている音も聞こえるけれどぐちゃぐちゃとして聞き取れない。ややあって、カメラの中のベッドに男女が飛び込んできた。桜井くんと雲雀くんの目が「まだ見るのか」と言いたげに向けられる。

『《あんまり焦――》』

『あ、大丈夫止めていい』

 必要以上に聞きたくはない。私が言い終えないうちに雲雀くんは止めてくれた。

『……で、どうかしたの、これ』

『最初に動画があること自体が美人局の証明になるとはいえないって話したけど、間違ってた。部屋に入る前からの動画あるなら、それは美人局の証拠になる』

『……隙を見てセットしたって言い訳が通用しないからか』

『そう』

『あー、それでGround-0使ってるんだ』

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