ぼくらは群青を探している
 どういう意味だ、と首を傾げると桜井くんは『大抵のラブホって一回入ったら外出られないんだよ。でもGround-0は出られるんだよね、先払いだし。だから先に動画撮るようにセットできてたんだと思う』詳しく教えてくれた。なるほど。

『知らなかった……確かにそうじゃなきゃなかなか上手く動画なんて撮れないよね』

『うん、なんかもともとビジホかなんかだったからそのシステムの名残とか……。……な、侑生!』

『いや知らねーけど』

『お前っ……!』

『……いまの桜井くんの指摘は林くんから聞いた情報とも一致するよね。あらかじめ撮れるようにしておけとは言われたって』

『……つまりこの動画が最初から撮れてること自体が美人局の証拠ってことか?』

 咄嗟に設置したのであればこんなに綺麗に撮ることはできない、部屋に入ってから撮影が始まるまでにあるはずのタイムラグがない、そして本来途中退出不可の部屋。これだけの要素があれば美人局に使うために撮影したとしか言うことはできない。

『そう。でもちょっと音声が悪い。理想はドアが開いて閉まる音も入ってること……』

『理想だろ? いくらでもごり押しできるんじゃね』

『……できれば確たる証拠を突き付けて優位に立ちたい』

 ふむ、と考え込んだ。

『捏造しよう』

『は?』

『……つまりまた三国とラブホ行って扉の音する動画撮るってこと?』

『うん』

 確たる証拠のためにはそれが一番いい。頷けば、桜井くんと雲雀くんは揃って顔を見合わせて額を押さえた。

『いいんだけどさあ……これどっちが行く? 三人分の金もったいなくない?』

『……手出さないよな?』

『出しません。三国に手出したら蛍さんに殺されるつーか三国のばあちゃんの顔見れない』

『……じゃんけんで決めるか』

『この流れで! 俺信用されてないの!』



 昨日の作戦会議の概要と部室でのやり取りを簡潔に伝えると、蛍さんはげらげらと笑い出した。


「お前よくやったな! 証拠の片方はブラフかよ!」

「本来的にはそんなものがなくても充分だったんですが、群青に手を出させないようにするためにはこっちが脅迫材料を得ておく必要があったので」

「てか三国ちゃん、見かけによらず黒いこと考えるね? 五十万円恐喝されてたことにしたんでしょ? 十万円と五十万円じゃ、まあ知らないけど、そりゃ五十万円のほうが警察駆け込まれたときに怖いよね」

「それは乗ってきた向こうが浅はかなので……」

「あさはか!」


 能勢さんはお腹を抱えて笑う。隣の中津くんはただただ「マジすげぇっす、感動しました」と頷いている。


「お前はマジで三国に感謝しろよ」

「はい! マジで感謝してます、(ねえ)さん」

「……姐さん……?」


 奇妙な呼称に怪訝な反応をしてしまった。蛍さんは吹き出したし、能勢さんはもう完全に笑い上戸となっているし、この先輩たちは全く使い物にならない。


「……姐さんって」

「本当は姐御って呼びたいんすけどね!」

「やめて。お願いやめてください」


 同級生の男子に姐御だの姐さんだの呼ばれるなんて冗談じゃない。何も知らない人に聞かれたときにはなんと思われるか。

 心底拒否して首を横に振っていると、隣の桜井くんは「そういえば三国呼びってなんかよそよそしいなあ」と中津くんに触発されたのか連想ゲームをしたのかよく分からないことを言い出した。


「もう英凜でよくね? 三国って長いし」


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