ぼくらは群青を探している
3.暴露
(1)空気
小学一年生のときにやった椅子取りゲームのことを、今でもはっきりと思い出す。
誰かがお題を決めて、そのお題に当てはまる人が参加する。当然、お題に当てはまる人の数よりも椅子の数はひとつ少なく設定される。三度座れなかったら、ゲームオーバー。
クラスに南塚健太という男子がいた。彼は二度、椅子を逃していた。
「健太やばいんじゃね?」
みんなが口々に囃し立てているのは聞こえたいた。そのタイミングで私は椅子を逃し、お題を提示する立場となった。
私は少し考え込んだ。今までみんなが使ったお題は、出席番号が一桁とか、運動会で黄組だったとか、そんなものだった。みんなが「南塚健太はやばい」と口々に話しているということは、今までと似たようなお題で、南塚くんが該当するものを出せばいい。
「名前が――」
私は口を開いた。クラスの子達が変わらず南塚くんを囃し立てていた。
「氏名あわせて八文字」
南塚健太以外に、氏名あわせて八文字の人はいなかった。
途中までは正しかった。南塚健太くんが選ばれるべき場面ではあったけれど、南塚くんが確定的に椅子を失うようなお題にするべきではなかった。南塚くんを含む、例えば出席番号が二〇番より後ろの男子とか、そう言うべきだった。
原風景と言われれば、それだ。
次は小学四年生。
「ねー、英凜ちゃんって平野くんのことどう思ってるの?」
クラスメートに突然尋ねられ、面食らった。平野くんも当時のクラスメートだった。
そのとき、平野くんがどこにいたのか知らない。教室内にいたのかもしれないし、いなかったのかもしれない。その子達が平野くんとどういう関係だったのかも知らない、仲が良かったのかもしれないし、特別仲は良くなかったのかもしれない。平野くんに頼まれたのかは知らないし、彼女らが勝手に聞いているだけだったのかもしれない。
ただ、私はそんなことは考えていなかった。
「別に、興味ないけど」
平野くんに興味はなかった。ただのいちクラスメートとしか思っていなかった。平野くんのことについてみんな以上に知っていることはなかったし、知りたいという気持ちもなかった。何の感情も持っていなかったから、その答えは真っ正直なものでしかなかった。
次の日から、なぜか平野くんには掃除中に箒で小突かれたり、廊下ですれ違った時に体当たりされるようにぶつかられるようになった。理由は分からなかった。分かる前に先生に見つかって平野くんと私が呼び出された。
「だって、三国が俺のことどうでもいいって言ったから」
平野くんは拗ねた顔でそんなことを言っていた。
「三国さん、どうしてそんなことを言ったの」
「どうでもいいとは答えてません。興味がないと答えました。平野くんのことをどう思っているのか聞かれたけど、私は平野くんに興味がないので」
あの時の先生の顔は、もう忘れてしまったし、〝どんな表情だったか〟という情報での記憶すらしていない。
誰かがお題を決めて、そのお題に当てはまる人が参加する。当然、お題に当てはまる人の数よりも椅子の数はひとつ少なく設定される。三度座れなかったら、ゲームオーバー。
クラスに南塚健太という男子がいた。彼は二度、椅子を逃していた。
「健太やばいんじゃね?」
みんなが口々に囃し立てているのは聞こえたいた。そのタイミングで私は椅子を逃し、お題を提示する立場となった。
私は少し考え込んだ。今までみんなが使ったお題は、出席番号が一桁とか、運動会で黄組だったとか、そんなものだった。みんなが「南塚健太はやばい」と口々に話しているということは、今までと似たようなお題で、南塚くんが該当するものを出せばいい。
「名前が――」
私は口を開いた。クラスの子達が変わらず南塚くんを囃し立てていた。
「氏名あわせて八文字」
南塚健太以外に、氏名あわせて八文字の人はいなかった。
途中までは正しかった。南塚健太くんが選ばれるべき場面ではあったけれど、南塚くんが確定的に椅子を失うようなお題にするべきではなかった。南塚くんを含む、例えば出席番号が二〇番より後ろの男子とか、そう言うべきだった。
原風景と言われれば、それだ。
次は小学四年生。
「ねー、英凜ちゃんって平野くんのことどう思ってるの?」
クラスメートに突然尋ねられ、面食らった。平野くんも当時のクラスメートだった。
そのとき、平野くんがどこにいたのか知らない。教室内にいたのかもしれないし、いなかったのかもしれない。その子達が平野くんとどういう関係だったのかも知らない、仲が良かったのかもしれないし、特別仲は良くなかったのかもしれない。平野くんに頼まれたのかは知らないし、彼女らが勝手に聞いているだけだったのかもしれない。
ただ、私はそんなことは考えていなかった。
「別に、興味ないけど」
平野くんに興味はなかった。ただのいちクラスメートとしか思っていなかった。平野くんのことについてみんな以上に知っていることはなかったし、知りたいという気持ちもなかった。何の感情も持っていなかったから、その答えは真っ正直なものでしかなかった。
次の日から、なぜか平野くんには掃除中に箒で小突かれたり、廊下ですれ違った時に体当たりされるようにぶつかられるようになった。理由は分からなかった。分かる前に先生に見つかって平野くんと私が呼び出された。
「だって、三国が俺のことどうでもいいって言ったから」
平野くんは拗ねた顔でそんなことを言っていた。
「三国さん、どうしてそんなことを言ったの」
「どうでもいいとは答えてません。興味がないと答えました。平野くんのことをどう思っているのか聞かれたけど、私は平野くんに興味がないので」
あの時の先生の顔は、もう忘れてしまったし、〝どんな表情だったか〟という情報での記憶すらしていない。