ぼくらは群青を探している
 私は私のもので誰のものになった覚えもないのだけれど……なんて考えていたら私が口にする前に雲雀くんが代弁してくれた。この二人がセットでいてくれてよかった、そうでなければ桜井くんの真面目なのかボケてるのか分からない言動のストッパーがない。


「……この際私が誰のものかはどうでもいいんですけど、なんで私が蛍さんの愛人に……?」

「え、だって集会であんな風に紹介されちゃね」


 ……集会のときの写真を頭の中のアルバムから引っ張り出す。じろじろと私を見ていた視線を分析することなんて到底できないけれど、桜井くんと雲雀くんに引き続いて紹介されたのだ、きっと奇妙な興味に染まっていたのだろう。


「……でもだからって愛人って」

「永人さん、三月にカノジョと別れたばっかりだしねー。愛人が入学してくるから別れたんじゃないかって(もっぱ)らの噂」

「だからなんで愛人!」

「さすがに三国ちゃんのことをお気に入りに過ぎるんじゃない?」


 どうやらそれは能勢さんにとっても謎だったらしい。能勢さんは珍しく眉を顰め、笑み以外の表情を作った。


「永人さん、本当に三国ちゃんのこと好きだよねえ。もしかして本当に愛人?」

「違います」

「やっぱそれって能勢さんから見てもそうなんすか?」桜井くんはタメ口半分敬語半分の口調で「この間、英凜の悪口言った三年がいたんですけど。永人さん、ソイツの顔思いっきり蹴ってたから」

「あー、その話は聞いたけど、永人さんはもともと女子の顔面をどうこう言うヤツらが嫌いなんだよ」

「え、やばいカッコイイ」


 桜井くんはわざとらしく口元に手を当ててみせる。さながら恋に落ちる女子がごとく。


「あ、そうだ、三国ちゃん、気を付けてね」この話の流れで何のことだと首を傾げると「その永人さんの元カノ、いまでも永人さんのこと引き摺ってるみたいだから。うっかりリンチとかされないようにね」


 ……私が蛍さんの愛人だという噂がこの上なく迷惑なものだということが分かった。桜井くんは口元に手を当てたままの状態で「あちゃー」と眉間に皺を寄せ、頬杖をついたままの雲雀くんは「……さすがに巻き込み事故が過ぎないですか、それ」とやはり冷静な意見をくれた。


「俺に言われても。世の中には嫉妬深い女の子が多いからね」

「つかそれ言ったら能勢さんっていつ女子に刺されてもおかしくなさそうですよね」

「永人さんが誠実さを売ってるなら、俺は女子に夢を売ってるから」


 心なしか、そう宣言した能勢さんの笑顔はいつもより輝いていた。桜井くんと雲雀くんは「あー、能勢さんはそうですよね、知ってた」「夢から覚めたときが怖いんじゃないんですか」と何かしら理解した様子だ。


「……夢を売ってるって?」

「英凜にはまだ早い話だよ」

「桜井くんに子供扱いされるの、納得がいかない」

「失礼!」

「とりあえず三年六組行こうか? あんまりダラダラしてると永人さんにしばかれちゃうから」


 そうして連れて行かれた三年六組の教室は、近付く前からギャハハだかゲラゲラだかよく分からない騒ぎ声が聞こえていた。その代わり、前回と違い、廊下に適当にたむろしている三年生はいない。その違いが生じている理由が分からずに辺りを見回していると「ああ、群青が集まってるからみんな近くにいたくないんだと思うよ」と説明が降ってきた。問題児も裸足で逃げ出す(ブルー・)(フロック)、と考えると自分がその一員だいう事実に我ながら驚きを隠せない。


「こーんにちは」

「おう芳喜、連れてきたか」
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