ぼくらは群青を探している
「でさー、三国ちゃん、英語ってマジどうやってやんの?」


 赤点じゃないけどそろそろヤバイんだよねー、と九十三先輩は大して危機感を抱いてなさそうな態度で続ける。


「……というか九十三先輩は英語の何が分からないんですか?」

「喧嘩売ってくるじゃんビビる」

「あ、すみません、えーっとそういう意味じゃなくてですね」つい油断して言い方を考えなかったことに焦りながら「その、中間テストの結果とかから考えませんか? 文法が分からないとか長文が分からないとかあるじゃないですか」

「あーもうね、全部」


 まるで投げ出すように九十三先輩は教科書を叩いたし、中山先輩と山本先輩も「つかbe動詞とかなにって感じじゃん?」と中学生の内容から怪しそうなことを平然と口走っている。先輩達の学力は能勢さんのいうとおりかもしれない。


「なんかさあ、漫画で勉強できるヤツって『これ覚えとけば大丈夫!』って感じで出そうな問題教えて当ててくれるじゃん。三国ちゃんああいうのは?」

「そういうのは私は分からないんで……」

「分かんないの? じゃあどうやって点とるの」

「……さあ……?」

「おーい永人、このちっちゃい先生、可愛いだけで使えねーよー」


 ダメ出しをされた……! 勉強会総監督役の蛍さんは早速能勢さんグループのメンバーの頭を叩いていたけれど、九十三先輩の声で「なんだようるせーな」と私達の間に戻ってきた。


「だって三国ちゃん、ヤマ張りできないって言うから」

「そういう会じゃねーだろこれは。つか仕方ねーだろ、他に英語できるヤツいねーんだから」


 隣で犬のふりをしている桜井くんも英語はできますよ……と口を挟みたかったのだけれど、ここでそんなことを言うと桜井くんにお(はち)が回るだけなので黙った。桜井くんもアピールせずに黙っている。なんならお座りの体勢のままガタガタと椅子の上で揺れているので犬になりきっているのかもしれない。


「素直に教われ、三国のやり方で」

「やり方もクソもなさそうなんだけど……。あ、じゃあ三国ちゃんこれ解くところ見せてよ」


 課題プリントなのかなんなのか、九十三先輩は教科書の間から四つ折りのプリントを取り出した。その左上にある最初の問題を指さされる。よくある整序問題だ。


「これ解いて」

【アからオの語句を並べかえよ。

 問一 I still _ _ _ _ _ last week.

 ア the cold

 イ recovered from

 ウ caught

 エ haven't

 オ I 】

「……"I still haven't recovered from the cold I caught last week."ですね」

「速すぎて草」


 答えただけでなぜか先輩達に笑われた。九十三先輩と私の間に立っている蛍先輩はシャーペンの頭でこめかみを揉む。


「……三国、ちゃんと解説しろ」

「解説……と言われても……」


 どう解いたかを説明しろと言われても、これ以外に正解がないのは明白で、説明するほどの思考過程もない。少し首を捻って、どうすれば解けるかを説明する方法を考える。


「……まず並んでる単語から『先週引いた風邪がまだ治ってない』という文章が出来上がると検討がつきますよね」

「おい永人、チェンジ」


 パンッと九十三先輩の頭がハリセンで叩かれた。ただ私の頭の上にもパフンと軽くハリセンが載った。驚いて顔を上げると、永人さんはその手のひらでパンパンとハリセンを跳ねさせている。

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