ぼくらは群青を探している

「あのな三国。九十三がバカなのも悪いがお前の解説も悪い。教える気あんのか」

「……そんなこと言われましても」

「お前桜井に勉強教えてんだろ? このバカ犬はお前の説明で理解したのか?」

「理解してくれました」

「ワン」

「なんでだよ。ハリセン(これ)はツッコミ用に持ってんじゃねーんだぞ」


 はーあ、と蛍さんは深い溜息を吐いて「んじゃ桜井が解説したらどうなんだよ」とプリントを指で叩いた。桜井くんは「ワフ?」「犬はもういいから」「キャイン」ハリセンで叩かれ「えーっと」人間に戻る。


「とりあえずhaven't が最初に来るしかないからそれで決まってー、あとはcatch the cold だからrecovered from the cold I caughtで終わり」


 パーンッとハリセンが一閃(いっせん)した。


「なんで!? 英凜のことは叩かなかったじゃん!」

「男女不平等主義者だから、俺」

「ひどい! カッコ悪い!」

「つか桜井、お前バカなんじゃねーの? なんで無駄に発音いいんだ」

「確かに英語教師(ニシダ)より発音よかった」九十三先輩はパチンと指を鳴らして「なんで? お前実は頭いいのか」

「能ある鷹は牙隠すんで」

「桜井くん、鷹にあるのは牙じゃなくて爪」

「あれ」

「能なしじゃねーか」


 というか桜井くんってどのくらい英語が喋れるんだろう。三科目の中で英語の順位は突出していたけれど満点ではなかった。でも母親がイギリス人というだけで当然英語が喋れるということにはならないからそんなに不思議な結果ではない。それに、話しぶりからしてずっと日本に住んでいるのだろうし、お母さんもきっと日本語で話していたんだろう。ただそれにしては発音はネイティブみたいだし……。

 次々と疑問が頭に浮かぶけれど、亡くなったお母さんのことをそんなにあれこれ聞いていいのか分からないし、なんなら桜井くんが群青の人達にハーフだと話しているのかも知らないから黙っておいた。


「んじゃ桜井、この次は?」


 そんな中、九十三先輩はなぜか桜井くんの学力を試し始める。次も同じような整序問題だ。

【問二 Does having pictures on a menu _ _ _ _ _ to order?

 ア to decide

 イ easier

 ウ what

 エ it

 オ make】

「〟Does having pictures on a menu make it easier to decide what to order?〟で」


 それで正解だ。隣で私は頷くけど「それっぽいけどあてずっぽう言ってね?」「合ってる気するけど回答ねーんだよな。桜井、日本語訳も言いな」と先輩達は疑いの眼差しを向けている。


「えー、メニューに写真があったら注文決めやすくなるよね? みたいな? なにこれこんなの何のタイミングで話すの」


 桜井くんはしかめっ面だ。問題として成立しているのはさておき、問題となる場面が思いつかない妙な文章であることには間違いない。


「まあ意味は分かるか……。まあ合ってんのかな」

「あ、大丈夫です、合ってますよ」

「……三国、お前は解説がない解答書だな」

「遠回しな役立たずの指摘はしないでください」

「おい雲雀、ヘルプ」


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