ぼくらは群青を探している
 そして数学担当の雲雀くんが巻き込まれた。雲雀くんは数Ⅱの教科書を持たされているけれど、当然まだそんな範囲は勉強していない。きっといちから教科書を見せてやらされているのだろう。


「……ヘルプってなんですか」

「この二人、解けるのに解説ができねーんだよ。これ、問二、解説して」


 パンパン、と蛍さんが机をハリセンで叩けば、仕方がなさそうに雲雀くんは私達のほうに体を向けた。色の白い腕が私と蛍さんの間に伸びてきて、長い指がプリントを摘まみあげる。


「……文の型なんて動詞で決まんだから、選択肢の中から動詞を選ぶ。こん中だと"decide"もあっけど、コイツはto不定詞になってるからとりあえず除外。そしたら"make"しか残んねぇ。んで、"make"はSVOOかSVOC構文をとるって決まってるけど、今回SVOOにしようと思ったら"easier"の行き場がない、つーわけで今回はSVOCの第五文型。んで、この中からOC選ぶとしたらOとして"it"、Cとして"easier"。ただ"what"が疑問詞で"to decide"の不定詞があるということは疑問詞+to不定詞で"what to decide"もOになれる。んじゃ"it"と"what to decide"のどっちを選ぶかつったら、makeはSVOCで目的語を一個しかとれないし、接続詞も見当たんねえ。ってなるとOに当たるもんを"it"の代名詞で済ませて後から本命を持ってくる構文だから"make it easier"の後に"what to decide"がくる。ってわけで正解は"make it easier what to decide to order"」


 ……まるで模範解答のような説明に舌を巻いた。桜井くんは「相変わらず小難しい話でわかんねーなー」と首を捻っているけれど、きっと英語の先生に解説を求めても同じ解説が返ってくるだろう。人は見かけによらない。

 ただ、先生の解説を聞いて分かるなら先輩達はこんなことになっていない。蛍さん以外の先輩は「ワカンネ」「つか第五ブンケーってなに」「あとフテーシってのも知らん」と。

 雲雀くんは閉口して蛍さんに助けを求めた。


「……これは俺悪くないですよね」

「……そうだな。つかお前ガチインテリかよ」

「インテリにガチもなにもないですよ、いるのはインテリとそうじゃないヤツだけ」

「やなヤツだなお前」


 くるりと雲雀くんは数学組の先輩達に向き直った。数学組からは「いやーお前マジ頭いーな」「これでお前が女だったらなあ」「天は二物を与えずってやつだな」と贅沢な文句と「黙ってその公式覚えてください」冷ややかな指導が聞こえてくる。


「で、三国。あれがあるべき解説だ」

「……解説……」


 手本があればできるだろ。そう聞こえてきそうな蛍さんの声に腕を組んで考える。問一の解説……。文型と役割……。


「分かりました。九十三先輩、問一を一緒に考えましょう」

「お、いいね、俺こういうの待ってた。女の子にこうやってマンツーマンで教えてもらう感じ」

「まずこの選択肢の中で明らかにひとつ役割が分かりやすいものがあるんですけど、どれか分かりますか」


 喜びの声を無視して進めた。九十三先輩は仕方なさそうにプリントを覗きこむ。


「……ワカンネ」

「"I"です。これ意味分かりますよね?」

「『私』?」

「役割は?」

「……主語とかそういう?」

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