ぼくらは群青を探している
「そうです。ですからこれの後ろには基本的に動詞が来ます。だから選択肢の中から動詞を選んでください」

「動詞かー」


 九十三先輩は「これ?」と言いながら"recovered from""haven't""caught"を選んだ。


「"haven't"は助動詞なので違います」

「でも持つって意味ないっけ?」

「動詞のときはそうですね。でもここでは助動詞なので」

「なんでジョドーシって分かるの」

「主語一つにつき動詞は一つと決まってるからです」

「……おん」


 九十三先輩は初めて聞いたかのように変な返事をするので「でも日本語と同じですよ」「サッカーして野球したって言うじゃん?」「それは正確には『私はサッカーをした、そして野球をした』なので接続詞があります」「あー、言われてみればそうなのか?」補足したのだけれど、あまり理解された様子はない。


「で、この文章は主語になる"I"が二つしかないですよね。だから動詞も二つしかないはずなんですよ。こういうときは助動詞にもなれる"haven't"を最初に除外します」


 中山先輩が「てか助動詞って初めて聞いた」なんて頷いているけどそんなはずはないのだ……。ツッコミたい気持ちを抑えながら続ける。


「この"I"とセットになれるのは"recovered from"と"caught"のどちらかです。逆にこの消去法で"haven't"は助動詞だと判明したのでこれの居場所を先に決めます」

「んー、後ろ。いやさっき桜井が"haven't"は最初だつってたっけ?」

「あてずっぽうで決めないでください」


 つい桜井くんに教えるように冷ややかな声が出てしまった。ハッと我に返ったけれど九十三(つくみ)先輩は「んー、って言われても分かんねーもんは分かんねーもんな……」と気にした様子はないので安心して続ける。


「"haven't"が現在完了で使われることは分かりますよね」

「知らね……」

「現在完了で使います。覚えてください、というか思い出してください」仕方なく繰り返して「これは時制を表す単語と一緒に使えないので"last week"とセットにしてはいけません。なおかつ主語のすぐ後ろに来ます。ということはもうどこか分かりますよね」

「……I stillの後ろ?」

「そうです。で、この助動詞の後ろには必ず動詞をくっつけます。そこで"last week"の意味が問題となりますが」

「せんしゅう?」

「そうです。最悪分からなくてもlastがついてたら『前の時点』ってくらいのふわっとした認識でもいいです」


 山本先輩の回答に頷いて、九十三先輩のプリントに「現在← →過去」と書く。


「last weekの文章が昔の話なので、あとは動詞の順序を考えますが、単語の意味が分からない前提で分析します。単語の頭に"re"がついてるじゃないですか。これよく見ません?」

「見る?」

「メールについてるじゃん」

「そういや確かに」

「返信すると件名につきますよね」


 くるりと"re"をシャーペンで丸く囲んだ。


「returnは元に戻す、revengeはもう一度挑戦する、replyはメッセージありきでこれに返事をする……"re"は二度目以降を示すものだとなんとなく思っててください」

「あー、なるほどねー」

「ということはrecoverは『何かが起こった』後に来る動詞です。言い換えれば、recoverより昔に別の動作があります」

「……んじゃcaughtのほうが昔?」

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