ぼくらは群青を探している
「そうです。だから昔側である"last week"とセットになるのは"I caught"。すると"haven't"の後ろにくるのは"recovered from"です」
「ほーお」
「残る"the cold"ですが、"the"は冠詞――詞につける冠なので、"the"がついてるのは名詞。で、"from"は前置詞――詞の前に置くものなので、後ろに名詞が必要。ここで問題になるのが、この文章は主語が二つある、つまり文章が二つあるはずなのに接続詞がないということです」
「……うん」
「必要なものがないということは省略です。省略できる接続詞といえば関係代名詞です」
「なにそれ」
問題演習なんかさせないで基本の文法からやらせるべきなのでは……? さすがに、さっきから先輩達が分からない分からないと嘆いている文法が分からないまま教えられる自信はない。
そう考えると、やっぱり桜井くんは英語に対する理解度が高いのだろうか。そして私はそれに甘えていたのかもしれない……とちょっとだけ自省した。
「……『先週引いた風邪がまだ治ってない』を二文に分けてみてください」
「……『風邪ひいたけどまだ治ってない』?」
「それじゃ一文のままです。『私は先週風邪を引いた』『その風邪がまだ治っていない』なので、これを英語にすると" I caught the cold last week. I still haven't recovered from the cold."なんです。この二文を繋げてくれるのが関係代名詞ですよ」
先輩のプリントに我が物顔で書き込んで「"the cold"が共通してるので省略するんです。だから" I still haven't recovered from the cold which I caught last week."が本来の形で、この"which"は目的格で省略できるから……」
「分からん!」
いよいよ説明も終わるというところになって九十三先輩はシャーペンを放り出した。後ろの中山先輩と山本先輩も「分かった?」「いや微妙」と首を横に振っている。だめだ、なにも伝わっていない。私のほうが頭を抱えたくなる。
「……これで分からないとなると」
「つか三国ちゃん、そんなこと考えながらやってんの?」
「……理論的に考えるとこういう並べ替え方になるなというだけで、こんなにしっかり考えてません」
「じゃどうやって解くの。めっちゃ早かったじゃん、三国ちゃんのテクを教えてよ」
「……感覚?」
「カンカク」
だめだこりゃ、と九十三先輩は椅子に背を預け、そのままカクンと首を後ろに落とした。
「つか単語の意味も分かんないのに並べ替えられるわけなくない?」
「でも今の説明なら最悪意味が分からなくてもいいですよ」
九十三先輩はそのまま暫く考え込んだ。きっと私の説明には単語の意味を前提としたものがなかったことを思い出しているのだろう、ややあってむくっと起き上がった。
「……確かに!」
「lastが前だとか"re"は二回目以降の動作だとか、そういう最低限の意味は分かってほしいですし、覚えてるほうが楽だと思いますけど、最悪分からなくてもいいです」
「んー……。楽って言われても、覚えるのが辛いんだよね。コールドが風邪で……リカバーが治る?」
「……九十三先輩ってポッケモンスターやったことない人ですか?」
「ほーお」
「残る"the cold"ですが、"the"は冠詞――詞につける冠なので、"the"がついてるのは名詞。で、"from"は前置詞――詞の前に置くものなので、後ろに名詞が必要。ここで問題になるのが、この文章は主語が二つある、つまり文章が二つあるはずなのに接続詞がないということです」
「……うん」
「必要なものがないということは省略です。省略できる接続詞といえば関係代名詞です」
「なにそれ」
問題演習なんかさせないで基本の文法からやらせるべきなのでは……? さすがに、さっきから先輩達が分からない分からないと嘆いている文法が分からないまま教えられる自信はない。
そう考えると、やっぱり桜井くんは英語に対する理解度が高いのだろうか。そして私はそれに甘えていたのかもしれない……とちょっとだけ自省した。
「……『先週引いた風邪がまだ治ってない』を二文に分けてみてください」
「……『風邪ひいたけどまだ治ってない』?」
「それじゃ一文のままです。『私は先週風邪を引いた』『その風邪がまだ治っていない』なので、これを英語にすると" I caught the cold last week. I still haven't recovered from the cold."なんです。この二文を繋げてくれるのが関係代名詞ですよ」
先輩のプリントに我が物顔で書き込んで「"the cold"が共通してるので省略するんです。だから" I still haven't recovered from the cold which I caught last week."が本来の形で、この"which"は目的格で省略できるから……」
「分からん!」
いよいよ説明も終わるというところになって九十三先輩はシャーペンを放り出した。後ろの中山先輩と山本先輩も「分かった?」「いや微妙」と首を横に振っている。だめだ、なにも伝わっていない。私のほうが頭を抱えたくなる。
「……これで分からないとなると」
「つか三国ちゃん、そんなこと考えながらやってんの?」
「……理論的に考えるとこういう並べ替え方になるなというだけで、こんなにしっかり考えてません」
「じゃどうやって解くの。めっちゃ早かったじゃん、三国ちゃんのテクを教えてよ」
「……感覚?」
「カンカク」
だめだこりゃ、と九十三先輩は椅子に背を預け、そのままカクンと首を後ろに落とした。
「つか単語の意味も分かんないのに並べ替えられるわけなくない?」
「でも今の説明なら最悪意味が分からなくてもいいですよ」
九十三先輩はそのまま暫く考え込んだ。きっと私の説明には単語の意味を前提としたものがなかったことを思い出しているのだろう、ややあってむくっと起き上がった。
「……確かに!」
「lastが前だとか"re"は二回目以降の動作だとか、そういう最低限の意味は分かってほしいですし、覚えてるほうが楽だと思いますけど、最悪分からなくてもいいです」
「んー……。楽って言われても、覚えるのが辛いんだよね。コールドが風邪で……リカバーが治る?」
「……九十三先輩ってポッケモンスターやったことない人ですか?」