ぼくらは群青を探している
桜井くんは怪訝な声を出したけれど、今回は九十三先輩に同意する。確かに牧落さんレベルに可愛ければ座っているだけでも先輩達のご褒美になる気がする。
先輩達は桜井くんの発言で二人の関係がなにやら親密そうだと気付いたらしい。「お前なんで胡桃ちゃん呼び捨てにしてんの?」「さてはお前既に――」「やめろよ三国ちゃんいんだぞ」と敏感に反応した。蛍さんは「この察しの良さが勉強に出ればな……」とぼやく。
「いや、なんでつか、幼馴染だし」
「そういえばそうじゃん!」
……どうやら牧落さんの人気は生半可なものではないらしい。真面目に勉強をしていた先輩もしていなかった先輩も、みんながみんな怒号かと思うほど大きな声を上げて振り向いた。反応してないのは蛍さんと能勢さんくらいだ。雲雀くんは眉をぴくりと動かしていたので、うるさいなくらいは思っているのだろうけれど、きっとそれだけだ。
「お前あの美少女が幼馴染なの、マジ最高だよなー!」
「前世でどんだけ徳積んでんだよ!」
「どーーりでチビなわけだよな、なんでもかんでも手に入ると思うな。あの美少女が幼馴染なら我慢しろ」
「え、俺がちっちゃいの胡桃のせい?」
「お前ごときが呼び捨てにしてんじゃねーよ! 胡桃ちゃんって呼べよ!」
桜井くんは九十三先輩の腕に軽く首を絞められた状態で「えー、いや、うーん」とどこか困ったような、悩んでいるかのような顔をする。
「可愛いけど……いや胡桃可愛いと思うけど、そんなかなあ?」
「ぜーたくなヤツだな! あんなの奇跡の美少女だろ!」
「つかそうだ、お前に言おうと思ってたんだよ。胡桃ちゃんが普通科に出入りして会ってる男がいるって噂聞いたけどあれお前だろ。あの胡桃ちゃんを誑かす普通科のクソ野郎見つけ出してシメてやるって思ってたけど、お前だろ!」
「え、俺そんなことになってんの? やだ、全然幼馴染ポジション要らない」
「貰えるなら貰いてーよ!」
ギャンギャンと喚く先輩達に、蛍先輩はいよいよ額を押さえた。脱線して事故が起きて復旧の目途は立っていません、そんな域まで来てしまった。先輩達は桜井くんに「いつから一緒?」「あれ小学生のころからあんな可愛いの?」「お前やっぱロリコンだよな」「ちげーよ胡桃ちゃんだけだよ」と牧落さんの話を振り始めてしまったので、私は微妙に立ち位置を失った。ただ雲雀くんは全く無反応で数Ⅱの教科書を捲っているので、そっと椅子を近づける。
「……牧落さんって先輩達の間でも人気なんだね」
「なんか有名らしいな。うちのテニス部、男女でコート分かれてねーだろ。だから先輩連中も目つけやすいんだよな」
そっか、牧落さんはテニス部なのか。頭の中でテニス部のユニフォームを思い浮かべる。あの美少女は誰よりもテニスウェアが似合う気がした。
「隣のコートにいる一年生可愛いけど誰だ、ってなるんだね。あんなに可愛いと納得かも」
「ま、中学から目立ってたらしいしな」
「ああ、お前ら中学は別か」
蛍さんは雲雀くんに相槌を打ちながら私達の隣に腰を下ろした。勉強会は諦めたのだろう。
「幼馴染ってことは家近いんだろ? なんで中学違うんだよ」
「牧落と昴夜の家がちょうど境界なんですよ。んで昴夜は俺と一緒だからって言って西中来て、牧落の家は厳しくて、まあ北中がわりとマシじゃないですか、生徒の層つか治安が。それで牧落は北中」
先輩達は桜井くんの発言で二人の関係がなにやら親密そうだと気付いたらしい。「お前なんで胡桃ちゃん呼び捨てにしてんの?」「さてはお前既に――」「やめろよ三国ちゃんいんだぞ」と敏感に反応した。蛍さんは「この察しの良さが勉強に出ればな……」とぼやく。
「いや、なんでつか、幼馴染だし」
「そういえばそうじゃん!」
……どうやら牧落さんの人気は生半可なものではないらしい。真面目に勉強をしていた先輩もしていなかった先輩も、みんながみんな怒号かと思うほど大きな声を上げて振り向いた。反応してないのは蛍さんと能勢さんくらいだ。雲雀くんは眉をぴくりと動かしていたので、うるさいなくらいは思っているのだろうけれど、きっとそれだけだ。
「お前あの美少女が幼馴染なの、マジ最高だよなー!」
「前世でどんだけ徳積んでんだよ!」
「どーーりでチビなわけだよな、なんでもかんでも手に入ると思うな。あの美少女が幼馴染なら我慢しろ」
「え、俺がちっちゃいの胡桃のせい?」
「お前ごときが呼び捨てにしてんじゃねーよ! 胡桃ちゃんって呼べよ!」
桜井くんは九十三先輩の腕に軽く首を絞められた状態で「えー、いや、うーん」とどこか困ったような、悩んでいるかのような顔をする。
「可愛いけど……いや胡桃可愛いと思うけど、そんなかなあ?」
「ぜーたくなヤツだな! あんなの奇跡の美少女だろ!」
「つかそうだ、お前に言おうと思ってたんだよ。胡桃ちゃんが普通科に出入りして会ってる男がいるって噂聞いたけどあれお前だろ。あの胡桃ちゃんを誑かす普通科のクソ野郎見つけ出してシメてやるって思ってたけど、お前だろ!」
「え、俺そんなことになってんの? やだ、全然幼馴染ポジション要らない」
「貰えるなら貰いてーよ!」
ギャンギャンと喚く先輩達に、蛍先輩はいよいよ額を押さえた。脱線して事故が起きて復旧の目途は立っていません、そんな域まで来てしまった。先輩達は桜井くんに「いつから一緒?」「あれ小学生のころからあんな可愛いの?」「お前やっぱロリコンだよな」「ちげーよ胡桃ちゃんだけだよ」と牧落さんの話を振り始めてしまったので、私は微妙に立ち位置を失った。ただ雲雀くんは全く無反応で数Ⅱの教科書を捲っているので、そっと椅子を近づける。
「……牧落さんって先輩達の間でも人気なんだね」
「なんか有名らしいな。うちのテニス部、男女でコート分かれてねーだろ。だから先輩連中も目つけやすいんだよな」
そっか、牧落さんはテニス部なのか。頭の中でテニス部のユニフォームを思い浮かべる。あの美少女は誰よりもテニスウェアが似合う気がした。
「隣のコートにいる一年生可愛いけど誰だ、ってなるんだね。あんなに可愛いと納得かも」
「ま、中学から目立ってたらしいしな」
「ああ、お前ら中学は別か」
蛍さんは雲雀くんに相槌を打ちながら私達の隣に腰を下ろした。勉強会は諦めたのだろう。
「幼馴染ってことは家近いんだろ? なんで中学違うんだよ」
「牧落と昴夜の家がちょうど境界なんですよ。んで昴夜は俺と一緒だからって言って西中来て、牧落の家は厳しくて、まあ北中がわりとマシじゃないですか、生徒の層つか治安が。それで牧落は北中」