ぼくらは群青を探している
「ああ、そういうことか。んじゃ芳喜(よしき)と一緒か?」


 能勢さんの物化組も勉強を中断してしまったので、能勢さんは椅子を引いて私達の近くに座りながら「そうですねー。中学のときから一個下にめっちゃ可愛い子いるって有名でしたよ」と頷く。


「まあでも、群青(おれたち)みたいなのとは違いますからね。関わりはないです」


 話を聞きながら、能勢さんと牧落さんを並べて考える。いわゆる美男美女の、映画で見るような組み合わせとして非常にお似合いな気がするのだけれど、能勢さんは群青のNo.2を務めるその手の界隈(かいわい)の実力者 (?)で、牧落さんはいわゆる教育熱心な家庭……。線と線はなんでも上手く交わるとは限らないようだ。


「まあ、牧落からも能勢さんの話は聞いたことないですね。意外ですけど」

「夢を売る相手は選んでるからね」

「つか雲雀、お前は牧落サンと仲良くねーのか?」


 あれ、さん付けだ。蛍さんの発言を聞きながらそんなことを思った。私のことは呼び捨てなのに、牧落さんのことはさん付け。蛍さんの言動はどちらとも言わず粗野(そや)で、基本的に女子のことは全員呼び捨てにするだろうから、きっとあのレベルの美少女になると気を遣っているのだろう。


「……まああんま関わりないんで」雲雀くんの視線が一瞬だけ桜井くんを見て「つか牧落が昴夜に絡むの再開したのって最近だし。話してんのそんな見ないですよ」

「へーえ。んじゃ桜井、マジで牧落サンと付き合ってねーのか」

昴夜(アイツ)は中身小学生じゃないですか。多分付き合うとか付き合わないとかいう概念理解してないですよ」

「君ら美少女センサー死んでるねえ。あれが幼馴染だったらとりあえず好きになりそうなのに」

「顔面偏差値って途中から評価値横ばいじゃないすかね」雲雀くんは心底どうでもよさそうな顔つきのまま「まあ、牧落の顔がめちゃくちゃいいのは分かりますけど、で? って感じです。顔面偏差値八〇で脳内偏差値五〇のヤツより顔面偏差値六〇で脳内偏差値七〇のヤツのほうがいいですよ」

「牧落サンがどうかは知らねーけど、お前の意見には激しく同意する」


 パンパンとハリセンで自分の肩を叩きながら、蛍さんは深く頷いた。どうやら、先日の『顔面偏差値至上主義者キライ』発言は本音だったらしい。


「……蛍さんって」

「うん」

「……自分より背の高い女の子はイヤとかあるんですか?」

「喧嘩売ってんのかオイ」


 能勢さんは声を上げて笑ったし、蛍さんにはハリセンで頭を小突かれた。さすがに男女不平等主義は発動しなかったらしい。


「いえ、その……素朴(そぼく)な疑問といいますか」

「永人さん、元カノは永人さんより背高かったですよねー」

「身長はどうでもいいからな」

「あっ、俺そっちの話のほうが気になる!」


 先輩達に絡まれていた桜井くんが飛び込むようにして会話に割り込んできた。でも背後から九十三(つくみ)先輩が桜井くんの肩を掴む。


「こら桜井、逃げんな。約束だからな」

「約束もなにも先輩達が勝手に言ってるだけじゃないですか!」


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