ぼくらは群青を探している
「いーや違うね、俺は分かった。俺が今まで勉強できなかったのはお前の教え方が悪かったせいだ」

「テメェの頭の出来の悪さを人のせいにすんじゃねぇ」

「だったらなんで俺の成績は中学三年間ビリなんだよ!」

「だからテメェの頭の出来がビリなんだよ」

「じゃー分かった、三国が勉強教えてくれて俺の成績が上がったらお前のせいだ」

「別にいいけど、結果分かってんだから落ち込むなよな」

「というわけだ、三国」


 ……何も意味が分からない。ただ巻き込まれていることだけは分かった。

 雲雀くんは知らん顔で携帯電話を取り出し「つか、テストっていつの話」と昨日聞いたホームルームの内容を忘れている。


「来週の金曜! ほら、実力テストがどうとか言ってたじゃん」


 いや、そもそも聞いてないのかも……。冷静に、テストなんて紙切れ1枚の結果にしかならないものをこの二人が気にしているはずがない。気にしている桜井くんが妙なのだ。


「別に、三国に頼まなくたって、幼馴染に教えてもらえよ」

「いやでも、三国は代表挨拶してるじゃん。ってことは三国のほうが頭いいじゃん?」


 安直(あんちょく)な指摘だったけど、雲雀くんは「ま、そりゃそうかもしんねーけど」と頷いて「でも俺の隣の席だからって、知り合って二日の三国に迷惑かけんのはどうなの」とこれまた妙に冷静な意見を述べた。

 ふーむ、と桜井くんは顎に手を当て、わざとらしく考え込む素振りをする。


「まあ……それもそうかもしない……」

「分かったら解散、解散。先公(センコー)くる前に座れ」

「でも俺、三国のこと気に入ったから三国がいいな!」


 そんな花いちもんめみたいな――! こんなに迷惑なお気に入り宣言もない。でも桜井くんは、事前の噂話とか昨日の所業を除けば、人懐っこいライオンか犬かのように思えるので、目の前の情報だけに集中すれば可愛く思えなくもなかった。


「ね、三国。いいよね?」


 しかも純粋そうな目で見つめられると断りにくかった。


「……いい、けど……」

「よっし!」

「三国、マジでコイツ頭の中に綿(わた)詰まってっから。いつやめてもいいからな」


 雲雀くんは申し訳なさそうに肩を竦めた。桜井くんは「これで高校からはビリ脱出だー」とばんざいをしながら席へと戻っていった。

 一体、なぜ、こんなことに。呆然としながら、そしてなにより首を捻りながら荷物の片づけの続きを始めて、昨日とは違う教室の様子に気付いた。

 そういえば、ツートーンくらいみんなの髪の色が暗くなったな。

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