ぼくらは群青を探している

(3)異変

 (ブルー・)(フロック)の勉強会は、試験一週間前になるとメンツが増え、三年六組はパンパンになった。


「一年の神童が教えてくれて成績爆上がりって聞いた」

「あの九十三が英語の小テストで五点取ったらしい」

「数学が突然できるようになるテクを教えてもらえるって」


 本当と嘘の入り交じった噂を引っ()げてやってきたメンバーを「そんなもんはねえ」と教卓の上の蛍さんは一蹴(いっしゅう)する。そしてパンッと膝の上の教科書を閉じた。


「が、やる気あんのはいいことだな。視聴覚教室でも借りるか」

「ああ、いいですね、広いですし」


 能勢(のせ)さんが頷けば、(ほたる)さんは早速「んじゃ鍵貰うか。おい三国(みくに)雲雀(ひばり)。職員室行くぞ、お前らも来い」


 私は数学組、雲雀くんは英語組を前に顔を上げる。こうしてたまに私と雲雀くんの担当が入れ替わることで、三年生の先輩達は雲雀くんを避けて通れないようになっている。英語担当が私だと思って英語を選ぶとうっかり雲雀くんの絶対零度の目が待っているというわけだ。


「え? 俺は?」


 そして、私の隣で今日も番犬兼自分の勉強をしている桜井(さくらい)くんは「なんで呼んでくれないの?」とでも聞こえてきそうな純真(じゅんしん)無垢(むく)な表情で首を(かし)げる。でも蛍さんは無情にも「だってお前は必要ないから」と歯に(きぬ)着せないどころか凶器を持たせる。


「成績上位の優等生集めれば先公もイヤとは言わねーだろうからコイツら連れてくんだよ。でもお前はバカだろ」

「バカじゃないもん!」

「もん、じゃねーよ。もうすぐ牧落(まきおち)サン来るだろうから相手してやっとけ」


 憤慨(ふんがい)する桜井くんは九十三(つくみ)先輩に(なだ)められ、私達は蛍さんに連れられて職員室へ行く羽目(はめ)になった。ちなみに牧落さんは試験一週間前で部活が休みだからと今日から勉強会に顔を出すらしい。蛍さんは最初は(しぶ)っていたけれど、群青メンバーの熱烈な要望により受け入れざるを得なかった結果だ。とはいえ、牧落さんは特別科の上位らしいので、先輩達に勉強を教えられるという点でメリットはあるし、それが蛍さんの頷いた理由でもある。

 職員室への道すがら、雲雀くんが少し首を傾げながら「……視聴覚教室の鍵、ないんですね」なんて呟いた。


< 180 / 522 >

この作品をシェア

pagetop