ぼくらは群青を探している
「……生徒は持ってないものなんじゃないの?」
「学校側に管理されてる鍵ってどっかのタイミングで合鍵作るもんなんだよ」
そんな常識は知らない。
「そう……なの?」
「少なくとも俺と昴夜は」
やっぱりそんな常識は知ったことではない。ただ、こっくりと頷く雲雀くんの隣で「まあ持ってる鍵もあるけど」と蛍さんも半分頷くので、もしかしたら私に常識がないのかもしれない。
「やっぱ屋上とかは持ちたくなるだろ。だから持ってるけど、視聴覚教室はな、持ってないほうがいいなと思って」
屋上に入りたいというのはなんとなく分かる。漫画で見かける憧れの空間だ。今度蛍さんに頼んで屋上に行かせてもらおうとこっそり決めた。
それはさておき、視聴覚教室だからといって鍵を作らない理由があるだろうか。首を捻っていると「ほら、よろしくないDVDとか見れちゃうでしょ?」……能勢さんの笑顔が降ってきた。群青にいると段々男子の性が分かってくる。
「……なる、ほど……?」
「鍵持ってると見るヤツがいるし、つか見てんじゃねーかとか言われそうだしなぁ」
「李下に冠を正さずってヤツですね」
「なんだそれ」
「スモモの木の下で頭の上に載ってる冠に手を伸ばすと、遠目にはスモモの実を取ってるように見えちゃうじゃないですか。怪しいことはするなって話です」
「時々お前らのインテリ具合が怖いんだけど、芳喜知ってる?」
「いや知らないです、俺もいま怖いなっていうか気持ち悪いなって思ってました」
先輩二人に謎の罵倒をされた。雲雀くんの顔を見ると肩を竦められたのでお互い釈然としていないのだろう。
目的地へ着くと、蛍さんは「どーもー」ととても職員室とは思えない態度で扉を開けた。でも先生達は振り向きもしないし、一番手前の中年の先生が「こらァ、どーもじゃないだろ、失礼しますだろ」と注意したくらいだった。
ただ、その先生は蛍さんの背後にぞろぞろいる私達を見て、注意をしたままの表情と態度で固まった。
「……蛍と能勢と……お前は雲雀だな、それと?」
「あ、すみません、三国です」
「三国?」
「一年五組の三国英凜です」
灰桜高校で蛍さんと能勢さんを知らない生徒がいないくらいだ、当然先生も目をつけているのだろう。そして雲雀くんもまた然り。ただ私のことは認識されていないらしく、顔を見ても名前を聞いても眉を顰めるばかりで、それこそ驚いたような反応はされなかった。
「三国……どっかで聞いたような……」
「山下先生、三国さんってあの子ですよ。今年の一番の」
隣の席の若い男の先生が耳打ちした。その山下先生は「あっ!」と大きな声を出し、職員室内の先生達がやっと振り向く。
「蛍! 一年女子を連れ回してるって聞いたけどよりによって三国か!」
……きっと、自意識過剰ではなく、灰桜高校で私を知らない人もいなくなっているのだろう。
「連れ回してなくね? 呼んだけど三国自分でついてきたし」
「私は犬か何かなんですか?」
「しかもお前……雲雀……」
「学校側に管理されてる鍵ってどっかのタイミングで合鍵作るもんなんだよ」
そんな常識は知らない。
「そう……なの?」
「少なくとも俺と昴夜は」
やっぱりそんな常識は知ったことではない。ただ、こっくりと頷く雲雀くんの隣で「まあ持ってる鍵もあるけど」と蛍さんも半分頷くので、もしかしたら私に常識がないのかもしれない。
「やっぱ屋上とかは持ちたくなるだろ。だから持ってるけど、視聴覚教室はな、持ってないほうがいいなと思って」
屋上に入りたいというのはなんとなく分かる。漫画で見かける憧れの空間だ。今度蛍さんに頼んで屋上に行かせてもらおうとこっそり決めた。
それはさておき、視聴覚教室だからといって鍵を作らない理由があるだろうか。首を捻っていると「ほら、よろしくないDVDとか見れちゃうでしょ?」……能勢さんの笑顔が降ってきた。群青にいると段々男子の性が分かってくる。
「……なる、ほど……?」
「鍵持ってると見るヤツがいるし、つか見てんじゃねーかとか言われそうだしなぁ」
「李下に冠を正さずってヤツですね」
「なんだそれ」
「スモモの木の下で頭の上に載ってる冠に手を伸ばすと、遠目にはスモモの実を取ってるように見えちゃうじゃないですか。怪しいことはするなって話です」
「時々お前らのインテリ具合が怖いんだけど、芳喜知ってる?」
「いや知らないです、俺もいま怖いなっていうか気持ち悪いなって思ってました」
先輩二人に謎の罵倒をされた。雲雀くんの顔を見ると肩を竦められたのでお互い釈然としていないのだろう。
目的地へ着くと、蛍さんは「どーもー」ととても職員室とは思えない態度で扉を開けた。でも先生達は振り向きもしないし、一番手前の中年の先生が「こらァ、どーもじゃないだろ、失礼しますだろ」と注意したくらいだった。
ただ、その先生は蛍さんの背後にぞろぞろいる私達を見て、注意をしたままの表情と態度で固まった。
「……蛍と能勢と……お前は雲雀だな、それと?」
「あ、すみません、三国です」
「三国?」
「一年五組の三国英凜です」
灰桜高校で蛍さんと能勢さんを知らない生徒がいないくらいだ、当然先生も目をつけているのだろう。そして雲雀くんもまた然り。ただ私のことは認識されていないらしく、顔を見ても名前を聞いても眉を顰めるばかりで、それこそ驚いたような反応はされなかった。
「三国……どっかで聞いたような……」
「山下先生、三国さんってあの子ですよ。今年の一番の」
隣の席の若い男の先生が耳打ちした。その山下先生は「あっ!」と大きな声を出し、職員室内の先生達がやっと振り向く。
「蛍! 一年女子を連れ回してるって聞いたけどよりによって三国か!」
……きっと、自意識過剰ではなく、灰桜高校で私を知らない人もいなくなっているのだろう。
「連れ回してなくね? 呼んだけど三国自分でついてきたし」
「私は犬か何かなんですか?」
「しかもお前……雲雀……」