ぼくらは群青を探している
 山下先生はじろじろと雲雀くんの恰好を頭のてっぺんから爪先まで眺めた。銀髪にズタズタのピアス、シャツは全開で、最早黒いインナーにシャツを羽織(はお)っているに等しい。その下に見えるベルトもギラギラしてド派手だし、せいぜいちゃんとしているのは上履きの履き方くらいだ (ちなみにちゃんと()いてないと喧嘩をしにくいのだそうだ)。誰がどう見たって校則違反の模範生だ。


「確か三国と同じクラスだったな。お前に影響されて三国がこんなことになったらどうする」

「止めます」

「止めるんかい」


 山下先生のそのツッコミは思わず私も口にしてしまいそうになった。


「だって三国、銀髪似合わなさそうだし」

「そこじゃないだろ! まったく、お前がそれで一年の期待の星だっていうのが、なんとも、他の生徒に顔向けできん……」


 山下先生は手に取ったボールペンを回しながらブツブツと呟いた。確かに雲雀くんの存在は身形と優秀さに相関関係がないことを証明してしまうので、学校側としては扱いづらいに違いない。

 そんな山下先生の三白眼(さんぱくがん)が、じっと私を見た。


「……三国、蛍やら能勢やら、雲雀やらに連れ回されて困っとるんじゃないか? 担任じゃなくてもいつでも相談に来ていいんだぞ」

「この流れで三国が困ってるとしたらヤマセンのせいだろ」

「山、下、先、生。略すんじゃない」


 蛍さんが先生と話す様子は初めて見たけれど、その態度は(ブルー・)(フロック)の三年生、つまり同級生と話すものと変わらない。しかも先生の目の前で愛称どころか略称を口にする始末。尊敬の念のなさがよく分かる。


「ところで山下先生、視聴覚教室の鍵を貸していただきたいんですけど」


 片や能勢さんは、やっぱり(ブルー・)(フロック)の中でも優等生の部類なのか、ちゃんと〝山下先生〟と呼ぶし、なんなら敬語も遣っている。山下先生は三白眼の上の(あら)い眉を吊り上げた。


「視聴覚教室? なんでや」

「いま(ブルー・)(フロック)で勉強会してるんですよ」

「勉強会ィ?」


 (ブルー・)(フロック)が? そう聞こえてきそうなほど素っ頓狂(とんきょう)な声だった。当然も当然だ。問題児集団が揃って勉強会なんて、学校の先生が聞いたら泣いて喜ぶ前に耳を疑う。それにしても、山下先生の声は起伏(きふく)があって分かりやすいからちょっと好印象だった。


「ちゃんと勉強してんのか。視聴覚教室でやらしいDVDでも見ようってんじゃないか」

「いやいや先生、こうして三国ちゃんとかいるわけですよ」能勢さんはポンと私の肩に手を置いて「清純で真面目な三国ちゃんの前でそんなもの見れるわけないじゃないですか」


 まさしく蛍さんが私を連れて来た理由な気がした。自分で言うのもなんだけれど、私がいるところでいかがわしいDVDを見ているとは思われないだろう。


「いーやお前らが三国を抱き込んでる可能性がある。大体、なんで三国を連れ回してるんだ」

「三国は雲雀と桜井の手綱(たづな)握ってるから」

「握られてませんけど」


 雲雀くんの(ささ)やかな否定を蛍さんは無視した。


「あと、三国が三年に勉強教えてんだよ、アイツらマジでバカばっかりだから」

「……お前らの学力考えたら、まあ一年の三国が教えてるのも分からんくはないが、お前ら、情けなくないんか」

「仕方ねーだろ、アイツら逆立ちしたって灰桜高校にトップじゃ入れねーよ」


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