ぼくらは群青を探している
「いえ、まあ……」


 頭には、勉強会初日、パンツの色を聞いてきた九十三(つくみ)先輩が浮かんだ。セクハラといえばそうだけど小学生のいたずらみたいなものだ。


「ささやかなものですし……」

「あの人達、悪気はないから。イヤならイヤって言いなよ。って言っても、三国ちゃんならいいって分かってるんだろうけど」

「まあ、別にいいんですけど……」


 ただ、私と出会って間もないはずなのに、なんで群青の人達はそうやって私を見透(みす)かすことができるのだろう。気になるのはそれだった。やっぱり……、そうやって見透かすことができない、私のほうがおかしいのだろうか。


「群青なんて男ばっかりだからね、女の子がいるいないでスイッチ切り替えないし。この間の春休みなんて、男しかいないのに王様ゲームなんてやるからもう惨劇(さんげき)だよね」


 王様ゲーム、漫画でしか見たことはないけれど、少なくとも男子しかいないグループでやるのは間違っている。


「惨劇……とは、具体的に……」

「俺が九十三先輩にキスさせられるとか? すんごい顔するね、言っとくけど俺被害者だからね?」


 予想以上の惨劇に自分がどんな顔をしてしまったのか分からなかった。ただ少なくとも能勢さんを心外にさせるには充分だったらしい、いつも穏やかになだらかな眉が八の字になった。


「でもその意味では三国ちゃんが群青に入ってくれてよかったかな。三国ちゃんがいる中で王様ゲームなんてしたら永人さんが止めてくれるだろうし」

「……その惨憺(さんたん)たる王様ゲームは止めてくれなかったんですか?」

「惨憺たるって」言葉選びに能勢さんは笑いながら「永人さん、基本悪ノリは止めないよ。人様に迷惑かけなきゃいいって思ってるから、あの人は。言っとくけど三国ちゃんの前では相当恰好つけてるよ」

「そう……なんですか?」

「桜井くんと雲雀くんがいるから恰好つけないといけないっていうのもあるんだろうけどね。ほら、群青はあの二人を欲しかったから、半端なトップじゃついてきてくれないんじゃないかってのが、当時の俺達にとっては目下(もっか)懸念(けねん)事項でね」


 視聴覚教室のある校舎へ行くと、一気に人気(ひとけ)がなくなり、能勢さんの声が響き渡る。


()められちゃまずい、でも早めに声をかけて群青に入れておきたい。まあ、色々と悩んだわけだよ、(ブルー・)(フロック)内部でね」

「……結局、新庄(しんじょう)が私を拉致(らち)したことが群青にとっては上手く作用したわけですよね」


 その言葉に込めずにはいられなかった疑念は、能勢さんに伝わっただろうか。そっと表情を観察するけれど、能勢さんはいつものほんのりとした笑みを変えないまま「そうだね、僥倖(ぎょうこう)……っていうと三国ちゃんには悪いけど、まあ近いかな」と頷くので、きっと伝わらなかったのだろう。


「……蛍さんから聞いてはいますけど、なんで群青はそんなにあの二人が欲しかったんですか?」

「ん、きっと永人さんが言ったことの繰り返しになると思うけど、あの二人は中学時代に別格だったからね。チームの勢力を簡単に傾ける」

「……とてもそんな風には見えないんですけどね」


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