ぼくらは群青を探している

(4)発覚

「あー……あー、英凜、こっちこっち」


 今回は美人局のときとは違い金髪のままの桜井くんはパタパタと牧落さんの隣で手招きをしていた。牧落さんが圧倒的に正統派の美少女なのに、隣の桜井くんが金髪の少年なので、その組み合わせが絶妙なアンバランスさを(かも)し出している。

 ちなみに隣の雲雀くんはまた黒髪だ。もしかしたら出かける度に黒く染めているのかもしれない。それはさておき、今日の雲雀くんは見て分かるくらいあまりにも不機嫌だ。人でも一人殺してきそうな目で桜井くんの隣に立っている。

 雨は降らないままだけれど、梅雨のせいで空はどんよりと重たい雲に覆われていて、真昼間とは思えない暗い日だ。そんな日にそんな顔でいれば立派な殺人犯だ。お陰で桜井くんが困った顔をしている。


「……ごめん、お待たせ」

「ぜんぜん、大丈夫だよ」

「いやもうめちゃくちゃ待った」桜井くんは牧落さんとは正反対のセリフを口にしながら「侑生の機嫌がクソ悪いの。マジどうにかして」とんだ無茶を言う。


「……雲雀くん、その、できるだけ早く用事は済ませるから……」

「…………」


 雲雀くんは無言だった。牧落さんは仕方がなさそうに「ほら、行こ行こ」と私の背中を押す。桜井くんは「うわーん、侑生機嫌悪いし水着売り場連れていかれるし、厄日(やくび)だよー」とわざとらしく後ろで喚いている。

 そうして四人で乗り込むファッションビルの表には「PRE SALE」の広告がこれでもかとばかりに貼られていた。どうやらそういう時期らしい。ただでさえ人が多いのに、こんな有様だと人酔いもしてしまいそうだ。実際、ビルの中に入れば、いつも外から眺める以上の人がごった返している。

 きっと私の顔が引きつったのだろう、牧落さんは眉尻を下げてちょっとだけ申し訳なさそうな顔をした。


「ごめんね、英凜、水着買いに行くの付き合わせて」

「……いや、蛍さんに行けって言われてたし」

「ほんとねー、なんで俺達まで付き合わされてんだろ。永人さんに命令されなきゃ来なかったのに」

「あたしが言ってるんだから付き合ってよ」

「俺、胡桃の保護者じゃないんだよなあ」


 エスカレーターの手前には、よくあるように各階のカテゴリーとショップ名が書かれている。牧落さんと桜井くんに続いてエスカレーターに上りながら、それをじっと見つめた。


「水着売り場って何階?」

「あ、見てなかった」

「……四階だったよ。イチアイ水着、だよね?」


 頭の中には「一愛水着」という字が浮かんでいたけど、読めなかった。すると牧落さんが「ヒメ水着だよ」と教えてくれた。あれでヒメか……。


「初めて聞いた」

「英凜、小学校のときとかどうしてたの? 本当にスク水?」

「うん、市民プールくらいしか行かなかったし。小学校のときは海が近くになかったから、別に必要なくて……」


 牧落さんのくりんとした目がパチパチと何度か(まばた)きした。そっか、桜井くんも私がおばあちゃんと住んでるとかそういう余計な話はしないのか……。


「……中学から一色市(ここ)に引っ越してきたから」

「あ、そうなんだ、知らなかった。みんな東中の三国さんって知ってたから」


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