ぼくらは群青を探している
 エスカレーターで二階に上ったところ。ポーズを取ったマネキンとオレンジのティシャツに同系色のチェックのショートパンツ。エスカレーターを降りたところに表を向けるようにしてずらりと並ぶ服の手前は黒。「Honey bee」をもじった店のロゴ。レディースのショップ。


「英凜ってそんな有名人なの」

「代表挨拶したのに普通科なんだもん。有名だよ」

「そんな四月の一瞬の話をいつまでも……」

「てか普通科の授業でいいの? だって授業聞いてる人なんていないでしょ?」

「うん、でも今のところ特に困ってないし」


 エスカレーターで三階に上ったところ。ネイビーのスーツとピンクのブラウスを着たマネキン。その隣には水色のブラウスにオフホワイトのタイトスカートをはいたマネキン。白、黄色、水色、ピンクのブラウスがその隣に平積みになっている。ベージュを基調とした店舗。「20+」というロゴ。またレディースのショップ。


「ていうか、侑生、そろそろ機嫌直してよ」

牧落(おまえ)のせいでこんだけ機嫌悪いって分かって言ってんのか、それ?」

「だからごめんって謝ったじゃん。帰っていいよとも言ったし」

「ここまで来させといて帰っていいよって本気か?」


 エスカレーターで四階に上ったところ。降りたときにちょうど視界に入るように、バッグがいくつか並んでいる。水色、黄色、ピンク色。その棚の下に小物。カードケース、財布。ピンク色、黄色、白色。


「……で、その一愛(ひめ)水着ってどこ? てか俺と侑生このカフェで待ってていい?」


 茶色い壁で囲まれたチューリーズ・コーヒー。看板は水色の背景に白色と黄色のグラデーションの飲み物。「Summer Lemon×Soda」の文字。


「そんなんじゃ来た意味ないじゃん。ちゃんと選んでよ」

「選ぶの!?」

「……本気で言ってるなら昴夜とやって、そういうの。俺帰るから」

「帰んないで! 俺が一人で選ぶことになるだけだから!」


 万屋(よろずや)と名乗っていてもおかしくないほどなんでも雑多な小物が揃っている店。色も全体的にまばら。通りかかる人が見るところには、筆箱、手帳、カードケースの革小物が並んでいる。


「うわ、もう見た目からして入りたくない。女の水着しか置いてない」

「当たり前でしょそんなの。あ、ほらこれとか、かわいーっ!」


 いつの間にか目的地に差し掛かって、私達の目の前には「一愛水着」のロゴが掲げられた店舗と鮮やかな(いろどり)に満ちたたくさんの水着が現れる。桜井くんがゲッとしかめっ面をするのに対し、牧落さんは恥ずかし気もなく早速水着を手に取った。上下に分かれた赤色の水着で、胸元にハイビスカスが描いてある。

 桜井くんと雲雀くんは無言だった。なんなら雲雀くんは携帯電話を取り出してパチパチといじり始めた。


「……侑生、なにしてんの」

「いや俺関係ないなと思って」

「関係あるじゃん! 俺がなんかコメントすんの、これ!?」

「どうって聞いてるじゃん」

「ほら侑生、なんか言って」

「どうでもいい」

「そうじゃないだろ!」

「じゃ昴夜はどうなの」

「……どうでもいいかな」


 店の前まで来ただけで勘弁してほしい、そう聞こえてきそうな二人の態度に牧落さんは頬を膨らませる。牧落さんみたいな美少女の我儘を聞いてくれないのは世界広しといえどこの二人だけかもしれない。


「英凜、選ぼ」

「……そうだね」


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