ぼくらは群青を探している
 竹かと思ったら知らない単語だった。ただ、牧落さんが手に取って見せてくれた水着は、上がまるで帯のような心もとなさだったので、バンドの仲間だと思うことにした。

 牧落さんはそのバンドゥタイプだというものをいくつか選ぶ。黄緑、オレンジ、黒、ボーダー、花柄、迷彩っぽい柄……その指が動くたびにクラクラする気がした。


「ん、これかも!」


 その手が最終的に選んだのは、上がオレンジで下が白の組み合わせだった。水着の上下で色が違うものなんて初めて見た。なんなら上はレースがひらひらとついているので、ティシャツを羽織(はお)ると水着の存在感がうるさそうだ。


「英凜は? それでいいの? もっと可愛いのにしない?」


 布面積だけを理由に選んだ水着は無地の青色のビキニとこれまた無地の白色の服みたいなものがついている。牧落さんは不満そうだ。


「いや別に水着なんて機能だけ考えればそれで……」

「そんな水着選ばせたら蛍先輩に怒られちゃう。こっち、こっちにしよ!」


 牧落さんが手に取ったのは、タイプとしては同じものだ。どうやら私の意を()んでくれたらしい。なんなら色も似たようなもので、しいていうなら水玉模様が入っている点と付属のネックレスみたいなものがある点が違っている。


「……あんまり変わらない気がするけど」

「これがあるだけで違うから」牧落さんはネックレスみたいなものを指に引っ掛けて「てか昴夜とかに聞けばよくない? ねー、昴夜」


 振り返ったところにいる桜井くんはゲッと再び顔をしかめた。きっと内心では「話しかけんなよ! ツレだってバレちゃうだろ!」と思っているに違いない。ちなみに隣の雲雀くんは逆にそっぽを向いた。

 そして牧落さんは構わず手招きし「今から試着するから」……なんだと?

「……え、水着って試着できるの?」

「え、できるよ。だって下着もできるじゃん」

「そうなの……!?」

「え、待って嘘でしょ。英凜、どこでブラ買ってるの」

「スーパーの二階の売り場」

「ギャーッ!」


 なぜか牧落さんが悲鳴を上げた。


「もしかしてそこ以外で買ったことないとか言う!?」

「言う……」

「ギャッ」


 牧落さんは顔を(ゆが)め、今にも手の水着を取り落としそうなほどショックを受けたことを表す。


「うそ、嘘でしょ! じゃもしかして上下揃ってない!?」

「ううん、上下はセットになってるの買ってる」

「いやいやでもでも! え、ちょっと見せて」

「ヒッ」


 牧落さんが問答無用で私のティシャツの胸座を軽く引っ張って中を(のぞ)き込んだ、そのせいで変な声が出てしまった。

 そして、強張(こわば)っていた牧落さんの表情は段々と緩んで穏やかになっていく。


「……うん、思ったよりセーフ。てか待って、サイズいくつ? これDじゃないよね?」

「ちょ、いえ、あの、そういう話はここではいいので……」じろじろと胸を覗き込む牧落さんを押しやり「というか下着にアウトとかないですよね?」思わず敬語になってしまった。


「ある。超ある。えー、英凜、下着も買いに行こうよ。可愛いお店行こうよ、ね?」

「……別に下着なんて誰に見られるわけでもあるまいし」

「蛍先輩に見られる日が来たらどうすんの!?」


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