ぼくらは群青を探している
「あるよ、普通に」

「あんの? 中学のとき彼氏とかいなかったじゃん?」

「それはいなかったけど……」

「英凜は可愛いんだけどさあ、男に興味なさそうな顔してるんだよな。だから彼氏いないんだよな」


 陽菜は中学三年生のときに彼氏がいて、卒業する前に別れていた。理由は「高校が違うから」。そんなところまで、陽菜は陽菜らしい。


「ないことはないんだけど、興味を顔に出す方法が分からないというか……」

「お前マジで表情筋死んでるもんな」

「あ、私、実は陰で三国さんのことクールビューティーって呼んでた」


 何の気なしに校舎の外を見ると、桜井くんと雲雀くんが財布片手に外へと向かうのが見えた。春の日差しの下で、二人の髪色はそれぞれきらきらと輝いている。

 なんか、いいなあ、と。仲良さげな二人を見ながら、そんな漠然とした羨ましさを抱いた。

 桜井くんが「よろしく頼んだ!」と勉強を教えられに席までやってきたのは、週明けの月曜日の放課後だった。ちなみに、桜井くんがそんなことをしてくれたので、クラスメイト達は、なにか起こっては堪らない、と我先にと教室を出ていった。陽菜でさえ顔の前に手刀を掲げて出て行った。お陰で教室には私と桜井くんと雲雀くんしかいなかった。緊張のせいで、背中にはじんわりと冷や汗が滲んだ。

 でも桜井くんは意にも介さず、いそいそとカバンを持ってきて、私の前の机を私の机とくっつけた。その上には中学校の数学の教科書が載せられた。どこから突っ込めばいいのか分からなかった。


「……えっと」

「数学が一番無理、多分実力テストなんてされたら0点になる」

「マークシートだろ、理論値はとれるんじゃね」

「……100÷4?」

「25だバカ」


 割り算の計算の異常な遅さに、教える前から匙を投げたくなった。桜井くんは「あー、あー、つまり25点取れなきゃやばいのか」と眉を八の字にして教科書を広げる。


「とりあえずマイナスとプラスでどうやって計算すればいいのか分からん」


 ああ、やっぱり重症だ。でもひとたび引き受けてしまった以上、放り出すのは悪い気もした。仕方なく、広げたノートに数直線を書く。


「……概念として」

「ガイネン?」

「……この線を数直線って呼ぶんだけど」桜井くんの頭の程度を一生懸命推察しながら「このメモリひとつが1を意味してる。ここが4で、ここが0。その右に-1がくる」

「……ふーん?」


 あまり理解した様子はない。というか、いくら灰桜高校の普通科とはいえ、こんなんでどうやって入学してきたんだ……、と額を押さえていると、隣で机に足を投げ出している雲雀くんが「ほらな、駄目だって、コイツに教えたって」と笑った。


「……雲雀くん、桜井くんに勉強教えてたの?」

「あ? あー……」

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