ぼくらは群青を探している
 ……それは一体どういう状況……? そもそも蛍さんなのが分からないし、それを()くとして、今後蛍さんの前で着替える場面があるとしても、見られないように必要な注意は払うだろう。その意味では牧落さんの配慮は全く見当違いだ。


「いいよそんな日来ないし……」

「来るかもじゃん。で、えーっとなんだっけ。あ、昴夜、ほら水着!」


 桜井くんは唇を真一文字に引き結び、雲雀くんと同じくそっぽを向いていた。呼ばれたと思ったら下着がどうのこうのなんて話が始まったせいで気まずいのだろう。


「……俺、いる?」


 辛うじてそう返事をするも、顔を(そむ)けたままだ。


「いる。あのねー、あたしはこれ。英凜はこれ。どう?」

「だからどうでもいいって……。……英凜のそれは服じゃん」


 チラチラとこちらを(うかが)っていた桜井くんが途端にホッと安堵(あんど)したように頬を緩めた。まるで警戒の解けた犬だ。


「えー、全然どうでもいいけど、いんじゃね」

「前半余計でしょ。じゃ着てみるから」

「いや見ないよ」

「似合わなかったらどうするの!」

「胡桃はなんでも似合うって。はいはいこれに決定、買って出てきたら声かけて」


 牧落さんはまた頬を膨らませた。桜井くんと話すたびに頬を膨らませているから相性が悪いのかもしれない。


「ねー、じゃあ侑生はー」

「どうでもいい」


 そして雲雀くんの塩対応は変わらず、と。私まで雲雀くんに睨まれるのは困るので、そっと牧落さんのブラウスを引っ張った。


「……いいじゃん、牧落さん可愛いんだからなんでも似合うよ」

「……でも合う色とか形とかあるし」


 頬をぷっくりと(ふく)らませて(しばら)()ねた態度をとっていたけれど、ややあって「……もういいや、これにしよ」やっと(あきら)めた。


「でもこの後下着買いに行こうね?」

「……そろそろ雲雀くんに射殺(いころ)される気がするんだけど」

「侑生だって英凜が可愛い下着つけてるほうがいいでしょ」

「なんで牧落さんの中ではみんな私の下着見るの?」

「可能性はあるじゃんって話! ね!」


 大体、それより何より、牧落さんに連れて行かれる下着売り場なんて、目が回る予感しかしない。でも例によって半ば強引に連れて行かれ、当然のごとく私の下着のサイズを把握され、半ば無理矢理下着を選ばれた。ただ、さすがに牧落さんも雲雀くんと桜井くんに下着を選ばせようとはしなかったし、二人はいつの間にかお店の近くから消えていた。

 下着を持ってレジで並びながら、ぎゅ、と目を(つむ)り、また開く。目の奥が痛くなってきた。まだそれほどの痛みはないけれど、どこかぼんやりと目の奥からこめかみにかけてが痛み始めている気がした。 

 下着を買った後の牧落さんは、満足気な笑みを浮かべて「あーよかった。お年玉の残り使っちゃったけど」とゆらゆらお店の袋を揺らした。


「英凜、もっと買わなくてよかったの?」

「下着って高いからあんまり買えなくない? セールだから少し安くはなってたけど……」

「ごめんごめん、付き合わせちゃって」

「あ、そういう意味じゃない……」


 文句を言いたかったわけではないし、当然謝らせたかったわけでもないのだけれど、口に出したこと以外の意味もなかったので口籠ってしまった。油断するとすぐこれだ。


「いいじゃん、あたし、表でニコニコして裏で悪口言う女子みたいなのキライだもん」


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