ぼくらは群青を探している
 だから文句じゃなくてただの合理なんだけどな……と思ったけど説明することはできないので黙る。

 それに、今はあんまり頭を使いたくない。うっすらと痛むこめかみを少し押さえた。


「あとほら、遠回しな言い方? 結局それって自慢したいだけでしょ、みたいなの」

「……まあ、そういうことをする人って器用だよね」

「器用?」


 牧落さんはキョトッと目を丸くした。


「だって、普通にスムーズに喋りながらセリフに他意を込めたり、心にもないけど相手にとって気持ちがいいことを言えたりするって、器用っていうか、頭の回転が速いっていうか」

「え、逆じゃない? みんな普通にやってるし、てかそれただの性格悪い人」


 ……だから、頭が悪いのは私だけなんだ。


「ていうか、昴夜たちどこ行ったんだろ」


 お店の近くにいたはずの桜井くんと雲雀くんはいつの間にか消えている。連絡を取ろうにも桜井くんは携帯電話を持っていない。牧落さんは「もー、だから早くケータイ買ってって言ってるのに」と携帯電話を睨みつけた。ピンク色のそれには携帯電話より大きなクマのぬいぐるみがくっついていた。


「……雲雀くんに連絡すれば出るんじゃない」

「侑生のケー番知らないんだよね。英凜知ってるの?」

「うん。電話かけてみる。……メール来てた」


 気が付かなかったけれど、雲雀くんから「エスカレーター横の椅子にいる」と短いメールが来ていた。そういえばエスカレーターの横に椅子が四つ並んでいたな──とフロアに来たときの写真を頭の中で引っ張り出してしまって、目の奥から奇妙な気持ち悪さが押し寄せた。


「そっかー、侑生、英凜にはケー番もメアドも教えてるんだ」


 牧落さんが雲雀くんの連絡先を知らない、その前提で、雲雀くんが私に連絡先を教えていることを指摘することの意味を、考える余裕がなかった。


「……なんか流れで」


 だから容易には頷けずに誤魔化す。そのくらいのことをする元気はあった。

 牧落さんは「そっかー、そっかー」と何度も頷きながら、ショップバッグを体の後ろで持ち直した。


「侑生ねー、あたしには連絡先教えてくれないんだよね。侑生の連絡先分かれば昴夜に連絡とりやすくなるのに」

「……雲雀くんはそういう伝書鳩が面倒なんじゃないかな。蛍さん相手にも断ってたし」

「あ、もちろん侑生にそんなこと言わないよ? 侑生には普通に教えてって言って普通に断られただけ。やっぱり侑生って英凜のことは好みなのかもね」

「それ、今日の雲雀くんに言ったら冗談抜きで殺されるよ」


 牧落さんが初めて五組に来たときの写真が脳裏に出てきてしまって、眉間を指で押さえる。でもただ痛いだけでちっともよくはならない。

 それにしても、雲雀くんは牧落さんにさえ連絡先を教えてないなんて……。でも、桜井くんが雲雀くんは他人に連絡先を教えるハードルが高いと話していたし、牧落さんのことは桜井くんの幼馴染程度にしか考えてないから教えてないだけなのかな。

 連絡があったところへ行くと、雲雀くんと桜井くんは揃って椅子に座っていた。桜井くんが金髪で雲雀くんが不自然なほど真っ黒い髪なので、並んでいると異質で分かりやすい。二人は「だから最近マジで体痛くて」「年じゃね」「筋肉痛じゃなくて成長痛だって言ってんじゃん!」とまたよく分からない話をしていたけれど、牧落さんが「お待たせ! ただいま!」と声をかければ顔を上げた。


「……なんか色々買ってるなあ」

「水着と下着だけだよ」

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