ぼくらは群青を探している
「……いや、アイツからそういう話は聞いてない。つかアイツはそういうのを言いふらすヤツじゃない」
雲雀くんが荒神くんをフォローした、そのせいで余計に確信してしまう。
能勢さんが、〝病気〟でも〝具合が悪い〟でもなく、私の〝体が弱い〟と思い込んでいるのは、新庄かその仲間からそう聞かされたからだ。
……ただ、蛍さんと能勢さんと新庄が、三人揃って共犯になっている可能性もなくはない。または、蛍さんと新庄が共犯で、蛍さんが能勢さんの前でうっかり口を滑らせてしまっただけという可能性も……。
ズキリズキリと痛む頭を押さえながら、目を閉じて、考える。別に、能勢さんだけが怪しいとは限らない。私は群青の人達のことを何も知らない。あの人達のことを信頼するに値するような出来事はなにもなかった。群青の誰かが新庄と手を組んでいて、その誰かが能勢さんに口を滑らせてしまっただけだという可能性も消えない。
ただ、新庄と組むメリットは桜井くんと雲雀くんを群青に入れること。そのメリットを考慮すると、やはり群青のNo.1とNo.2が噛んでいると考えるのが自然……。
「……三国、どうした?」
「……ううん、なんでも……」
……雲雀くんと桜井くんには、言わないでおこう。下手な疑いを知って立ち回りにくくなってはいけないから。
「……いまの、体が弱いって話、内緒ね」
「……別に言い触らしやしねーけど、そんな話」
雲雀くんの性格を知っているお陰で、ほんのりと眉間に皺を寄せる動きと怪訝な声が、そんなデリカシーのないことはしないと約束してくれているのだというのが分かった。
もう、大丈夫だ。私の中では雲雀くんと桜井くんの表情と声音のパターン化がされている。間違える確率は低い。
「つか……知られたくないなら口出すことじゃねーけど、それ抜きにしたら知られといたほうがいいんじゃねーの。ゴールデンウィークに昴夜が海に落としたろ、ああいうのとか危なくね」
「ああ、大丈夫、体が弱いっていうのは荒神くんの勘違いだから」
体が弱いと聞いてからの発想が荒神くんと同じで、なんだか笑ってしまった。でもその話をしていたときの写真を思い出してしまって、ズキリとまた頭が痛んだ。
「勘違い?」
「うん。精神科で病気だって言われてこっちに引っ越してきて、で、両親が中学の先生にそれを話して、中学の先生が『病気』って一言説明したから、そうやって勘違いしてるの」
雲雀くんの長い睫毛がパタパタと上下した。その理由を一瞬考え込んでしまった後に〝精神科〟というワードが持つ偏見に思い至る。現に、雲雀くんの口は少し躊躇いがちに開いた。
「……覚えすぎるってのは、精神科の問題じゃねーだろ」
それはもちろんそうだ。脳外科を選ぶべきかもしれないことくらい、素人の私にも分かる。でも雲雀くんがしているのはそういう話ではないことくらい、文脈を考えれば分かった。
「じゃ、雲雀くんが将来医者になって、治療方法が分かったら教えて」
「……俺はお前に精神的な治療が必要には見えねーけどな」
そう言えるのは、私が正常であるかのように振舞って、雲雀くん達を騙せているからだ。例えば能勢さんが女子ウケを狙ってそう振舞っているように。
でも、もしかしたら、そうじゃないのかもしれない。私は|異常だ(おかしい)と言われたけれど、もしかしたら、自分が信じているとおり、人より少し頭が悪いから思考を介在させなければ他人の表情、空気や雰囲気を読むことができないだけで、ごくごく正常な部類の人間なのかもしれない。
ちょうど、やってくる桜井くんと牧落さんが見えたので、ぐっと背伸びをしながら「まあね、そうかもね」と淡い期待を胸に相槌を打った。
雲雀くんが荒神くんをフォローした、そのせいで余計に確信してしまう。
能勢さんが、〝病気〟でも〝具合が悪い〟でもなく、私の〝体が弱い〟と思い込んでいるのは、新庄かその仲間からそう聞かされたからだ。
……ただ、蛍さんと能勢さんと新庄が、三人揃って共犯になっている可能性もなくはない。または、蛍さんと新庄が共犯で、蛍さんが能勢さんの前でうっかり口を滑らせてしまっただけという可能性も……。
ズキリズキリと痛む頭を押さえながら、目を閉じて、考える。別に、能勢さんだけが怪しいとは限らない。私は群青の人達のことを何も知らない。あの人達のことを信頼するに値するような出来事はなにもなかった。群青の誰かが新庄と手を組んでいて、その誰かが能勢さんに口を滑らせてしまっただけだという可能性も消えない。
ただ、新庄と組むメリットは桜井くんと雲雀くんを群青に入れること。そのメリットを考慮すると、やはり群青のNo.1とNo.2が噛んでいると考えるのが自然……。
「……三国、どうした?」
「……ううん、なんでも……」
……雲雀くんと桜井くんには、言わないでおこう。下手な疑いを知って立ち回りにくくなってはいけないから。
「……いまの、体が弱いって話、内緒ね」
「……別に言い触らしやしねーけど、そんな話」
雲雀くんの性格を知っているお陰で、ほんのりと眉間に皺を寄せる動きと怪訝な声が、そんなデリカシーのないことはしないと約束してくれているのだというのが分かった。
もう、大丈夫だ。私の中では雲雀くんと桜井くんの表情と声音のパターン化がされている。間違える確率は低い。
「つか……知られたくないなら口出すことじゃねーけど、それ抜きにしたら知られといたほうがいいんじゃねーの。ゴールデンウィークに昴夜が海に落としたろ、ああいうのとか危なくね」
「ああ、大丈夫、体が弱いっていうのは荒神くんの勘違いだから」
体が弱いと聞いてからの発想が荒神くんと同じで、なんだか笑ってしまった。でもその話をしていたときの写真を思い出してしまって、ズキリとまた頭が痛んだ。
「勘違い?」
「うん。精神科で病気だって言われてこっちに引っ越してきて、で、両親が中学の先生にそれを話して、中学の先生が『病気』って一言説明したから、そうやって勘違いしてるの」
雲雀くんの長い睫毛がパタパタと上下した。その理由を一瞬考え込んでしまった後に〝精神科〟というワードが持つ偏見に思い至る。現に、雲雀くんの口は少し躊躇いがちに開いた。
「……覚えすぎるってのは、精神科の問題じゃねーだろ」
それはもちろんそうだ。脳外科を選ぶべきかもしれないことくらい、素人の私にも分かる。でも雲雀くんがしているのはそういう話ではないことくらい、文脈を考えれば分かった。
「じゃ、雲雀くんが将来医者になって、治療方法が分かったら教えて」
「……俺はお前に精神的な治療が必要には見えねーけどな」
そう言えるのは、私が正常であるかのように振舞って、雲雀くん達を騙せているからだ。例えば能勢さんが女子ウケを狙ってそう振舞っているように。
でも、もしかしたら、そうじゃないのかもしれない。私は|異常だ(おかしい)と言われたけれど、もしかしたら、自分が信じているとおり、人より少し頭が悪いから思考を介在させなければ他人の表情、空気や雰囲気を読むことができないだけで、ごくごく正常な部類の人間なのかもしれない。
ちょうど、やってくる桜井くんと牧落さんが見えたので、ぐっと背伸びをしながら「まあね、そうかもね」と淡い期待を胸に相槌を打った。