ぼくらは群青を探している

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 シーソー、と玄関チャイムが鳴った。立ち上がろうとするおばあちゃんを「大丈夫」と止めて、ガラガラと引き戸を開けた。

 玄関前には、桜井くんと雲雀くんが立っている。揃ってティシャツと短パン姿で、しかもその見た目のせいなのか二人は妙に爽やかで、そのせいで、玄関扉を開けた瞬間の梅雨の湿った空気なんて錯覚であるかのようにさえ思えた。そんな爽やかな桜井くんはピッと手を挙げてみせる。


「英凜、元気なった?」


 隣の雲雀くんは無言だった。でもきっと雲雀くんのことだから心配はしてくれていたのだろう。


「……なったよ。昨日はごめん」

「えー、別になんも。つか英凜のお陰であのまま解散になったし、ラッキー。……胡桃には内緒な。んじゃお邪魔しまーす」


 まだ二回目なのに、桜井くんはまるで何度も来たことがあるかのような気軽さで敷居を越える。対する雲雀くんはまるで何かを警戒しているかのようにおそるおそる「……お邪魔します」と入ってきた。

 その二人を出迎えるように、おばあちゃんが台所からゆるりと顔を出す。桜井くんは私にしたのと同じように、ピッと手を挙げた。


「やっほー、英凜ばーちゃん」

「バカ、お邪魔しますくらい言え」

「それはさっき言ったじゃん」

「家主の顔見たんだからまた言うんだよ」

「桜井くんだったかいね」


 ゴチャゴチャと話す二人のペースをお年寄り特有のペースでスルーし、おばあちゃんは私達にゆっくりと歩み寄る。


「あと、ええと」

「……雲雀です。お邪魔します」

「ああ、そうだ、雲雀くんね」


 ついさっき「桜井くんと雲雀くんが勉強に来るから」と話したばかりなのに頭に入っていなかったのだろう。おばあちゃんはポンッと手を叩き、そして思い出すと繋がってしまうらしく「ああ、若先生の息子さんかね」と早速雲雀くんの地雷を踏んだ。

 桜井くんの話によれば、雲雀くんは家が病院だということを――具体的には知らないけれど――なんらかの観点から気に病んでいるのでは? 雲雀くんの反応を見てフォローの方向を決めようとサッと視線を動かしたけれど、雲雀くんはいつもの無表情だった。


「……若先生って」

「雲雀先生の息子さんの。ええと、名前が」

鴻生(こうせい)なら父です」

「そうそう、雲雀(ひばり)鴻生(こうせい)先生」


 意外にも、雲雀くんの声の調子は変わらなかった。実家が病院、それ自体ならそんなにとんでもない地雷というわけではないのだろうか。


「お父さんに似て、ハンサムじゃねえ」


 が、そのセリフを聞いた瞬間、(かす)かに目尻の皺が動き、更に口が一瞬だけ開いた。


「……いや、母親似なんで」


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