ぼくらは群青を探している
「そうやって頭の中で情報として処理してる記憶もあるから……英単語とかも、いちいち写真を引っ張り出さずに感覚で書くし……。でもそういうのって、みんなもそうだと思うから、私に特異なことって言われると私から説明するのは難しくて……」
周囲からどれほど説かれても、自分の見るものや感じるものが他人のそれらと違うなんて理解できない。だから私の覚え方が他人と違うことの証明はされないままだと、信じている。みんな、こうやって覚えているのだと。
惑うように口籠った私に、桜井くんと雲雀くんは顔を見合わせた。
「……まあ、多少は画像で覚えるよな」
「俺はペットボトルのラベルに何が書いてあったかなんて全然思い出せないけど」
「お前は一時間前に話したことも忘れてんだろ。ただの痴呆だ」
牧落さんとの約束も集会の連絡も全て忘れる桜井くん……。そんな前科があることを思い出すと、雲雀くんの冷ややかな罵倒に対するフォローはできなかった。
「でもそれって話したことじゃん」
「それ痴呆に対する反論になってんのか?」
「そうじゃなくてさー、英凜って見たものだけじゃなくて聞いたものも覚えてんのってこと。覚えてんの?」
「そりゃ人並みには覚えてるけど……」
桜井くんに比べれば、と喉まで出かかったけど黙った。……でも桜井くんに物忘れが激しい印象はない。前科はあるけど、それは限られているというか、興味がないものを覚えていないだけのような気がした。
「三国って昔に話したこともめちゃくちゃ覚えてんじゃねーの。よく池田と話して、池田が全然覚えてねーみたいに言ってんじゃん」
「あー、うん……。陽菜はそういうタイプ」
「そういうタイプって?」
「話したことはあんまり覚えていないタイプ。この間『ユースティア戦史』って漫画読んだんだけどめっちゃ面白いぞ、オススメって言われたんだけど、それ中学二年生の帰り道に一緒に本屋さんで見て私が面白いよって勧めたヤツだなあとか……」
「クソワロタ」
桜井くんはお腹を抱えて笑ったし、雲雀くんは「それは池田が記憶喪失なんじゃね」なんて一蹴した。知らないところで陽菜の記憶力が罵倒されている。ごめん陽菜、と心の中で謝っておいた。
「つか侑生、池田と英凜の話、盗み聞きしてんの?」
「隣にいるから聞こえるだろ」
それは私もちょっと気になった……。今後は聞かれて困る内容を話していないか気を付けることに決めた。
「つか池田のそれはさ、池田も覚えてないのはあれだけど、そもそも中二のときに寄り道して勧めたとか、そこまで覚えてなくね? それってやっぱ写真で覚えんの?」
「あー、うん……会話は音声だけ覚えてることもあるけど、動画っぽく覚えてることもあるかも……」
考えたことがなかったけれど、言われてみればそんな記憶の仕方もしている。
「確かに耳で聞いたことはその光景のまま覚えてたりするね、例えば雲雀くんが白雪に乗り込んだときに『お前らを年少にぶちこめるところをこっちは黙っといてやるって言ってんだぞ』って言ったことは雲雀くんが今津を踏みつけて口に足を突っ込もうとしてた光景と一緒に思い出すし」
「なんでよりによってその例えを出した?」
「ごめん分かりやすいかと思って……」
女装の図をしっかり記憶している、その事実に雲雀くんのこめかみには青筋が浮かんだ。でも記憶は私の好き勝手に削除できるものではないので仕方ない。
周囲からどれほど説かれても、自分の見るものや感じるものが他人のそれらと違うなんて理解できない。だから私の覚え方が他人と違うことの証明はされないままだと、信じている。みんな、こうやって覚えているのだと。
惑うように口籠った私に、桜井くんと雲雀くんは顔を見合わせた。
「……まあ、多少は画像で覚えるよな」
「俺はペットボトルのラベルに何が書いてあったかなんて全然思い出せないけど」
「お前は一時間前に話したことも忘れてんだろ。ただの痴呆だ」
牧落さんとの約束も集会の連絡も全て忘れる桜井くん……。そんな前科があることを思い出すと、雲雀くんの冷ややかな罵倒に対するフォローはできなかった。
「でもそれって話したことじゃん」
「それ痴呆に対する反論になってんのか?」
「そうじゃなくてさー、英凜って見たものだけじゃなくて聞いたものも覚えてんのってこと。覚えてんの?」
「そりゃ人並みには覚えてるけど……」
桜井くんに比べれば、と喉まで出かかったけど黙った。……でも桜井くんに物忘れが激しい印象はない。前科はあるけど、それは限られているというか、興味がないものを覚えていないだけのような気がした。
「三国って昔に話したこともめちゃくちゃ覚えてんじゃねーの。よく池田と話して、池田が全然覚えてねーみたいに言ってんじゃん」
「あー、うん……。陽菜はそういうタイプ」
「そういうタイプって?」
「話したことはあんまり覚えていないタイプ。この間『ユースティア戦史』って漫画読んだんだけどめっちゃ面白いぞ、オススメって言われたんだけど、それ中学二年生の帰り道に一緒に本屋さんで見て私が面白いよって勧めたヤツだなあとか……」
「クソワロタ」
桜井くんはお腹を抱えて笑ったし、雲雀くんは「それは池田が記憶喪失なんじゃね」なんて一蹴した。知らないところで陽菜の記憶力が罵倒されている。ごめん陽菜、と心の中で謝っておいた。
「つか侑生、池田と英凜の話、盗み聞きしてんの?」
「隣にいるから聞こえるだろ」
それは私もちょっと気になった……。今後は聞かれて困る内容を話していないか気を付けることに決めた。
「つか池田のそれはさ、池田も覚えてないのはあれだけど、そもそも中二のときに寄り道して勧めたとか、そこまで覚えてなくね? それってやっぱ写真で覚えんの?」
「あー、うん……会話は音声だけ覚えてることもあるけど、動画っぽく覚えてることもあるかも……」
考えたことがなかったけれど、言われてみればそんな記憶の仕方もしている。
「確かに耳で聞いたことはその光景のまま覚えてたりするね、例えば雲雀くんが白雪に乗り込んだときに『お前らを年少にぶちこめるところをこっちは黙っといてやるって言ってんだぞ』って言ったことは雲雀くんが今津を踏みつけて口に足を突っ込もうとしてた光景と一緒に思い出すし」
「なんでよりによってその例えを出した?」
「ごめん分かりやすいかと思って……」
女装の図をしっかり記憶している、その事実に雲雀くんのこめかみには青筋が浮かんだ。でも記憶は私の好き勝手に削除できるものではないので仕方ない。