ぼくらは群青を探している
ゴソゴソと桜井くんはやっと英語のノートと教科書を取り出した。でも桜井くんがやるべきは絶対に英語ではない。雲雀くんに助け舟を求めて視線を遣ったけれど、肩を竦めるだけだ。
「……じゃあとりあえず週末課題でもやる?」
「やるー」
英語になると桜井くんはちゃんと集中力を発揮する。課題を解く間、ブツブツと単語を呟きはするけど、それでもシャーペンはちゃんと動く。
「そういやさー、ツクミン先輩が海行こうって」
そして、たまに口も動くけれど、ちゃんと手も動く。雲雀くんも「分かってるよ。だから昨日水着買いに行ったんだろ」と手を動かしながら返事をした。
「そうじゃなくて、日が決まったって話。五日」
「夏休み……二週目か」
「そそ。なんか二十九日はダメなんだってさ」
「あの人、補習で夏休み学校缶詰めになればいいのにな……」
「雲雀くんは九十三先輩が嫌いなの?」
「いや、侑生、嫌いだと先輩でも無視するから。ツクミン先輩のことはわりと好き寄イッテ」
桜井くんのこめかみがシャーペンで小突かれた。桜井くんはいつもこれだ。
「いーじゃん、いまツクミン先輩いないんだし」
「だからなんだよ」
「照れ隠ししないでもって話」
雲雀くんは無言で、なんなら九十三先輩をわりと好きであることを否定しなかった。雲雀くんの他人との距離の取り方が分かってきた、雲雀くんにとっては近くにいることを許していることが「好き」の顕れらしい。そして九十三先輩もきっとそれを分かっている。
「……九十三先輩って、あんなだけど雲雀くんの扱いに手慣れてる感あるよね」
「扱いとかいうんじゃねーよ」
「ツクミン先輩、弟いるんだって。それじゃん?」
「弟さんいるの?」
「うん。ツクミン先輩、男三兄弟の真ん中だよ」
頭の中に九十三先輩の顔を思い浮かべる。考えてみれば、九十三先輩は、喋り方もその内容も軽薄だけれどその加減が絶妙だ。あれは弟としての要領の良さかもしれない。それでもってこの雲雀くんを (ちょっとだけ)懐かせているのは兄としての面倒見の良さの顕れのような気がした。
「……言われてみれば九十三先輩、すごく次男っぽいね」
「次男っぽいってなに?」
「……兄と弟の属性のいいところをちょっとずつ貰ったみたいな」
「兄と弟の属性ってなに?」
「イメージだけど、お兄さんは面倒見の良さとか奔放さで、弟は甘え上手とかかな……。あ、雲雀くんはそんな奔放って感じはしないんだけど」
雲雀くんがお兄さんだったことを思い出して慌てて付け加えた。でも雲雀くんは何も言わないので多分気にしてない……と思う。
「兄属性かー」桜井くんは頭の後ろで腕を組んで「じゃあ俺は一人っ子属性なのかな、一人っ子属性はなに?」
「……自由とか我儘とか」
「俺のイメージ酷くない?」
「桜井くんじゃなくてあくまで一人っ子のイメージだから」
「でも当たってんだろ。お前はふらふらふらふらしてて自由だよ」
そうして喋っているうちに三時を過ぎたので、キッチンに置いたままになっていたドーナツと和菓子を回収した。おばあちゃんはいなかったので、どうやら私達が勉強していることに気を使って黙って出て行ったらしい。
勉強道具を一度片づけてテーブルの上にドーナツと和菓子を置くと、桜井くんは頬杖をつきながら「ははーん」なんて頷いた。
「……じゃあとりあえず週末課題でもやる?」
「やるー」
英語になると桜井くんはちゃんと集中力を発揮する。課題を解く間、ブツブツと単語を呟きはするけど、それでもシャーペンはちゃんと動く。
「そういやさー、ツクミン先輩が海行こうって」
そして、たまに口も動くけれど、ちゃんと手も動く。雲雀くんも「分かってるよ。だから昨日水着買いに行ったんだろ」と手を動かしながら返事をした。
「そうじゃなくて、日が決まったって話。五日」
「夏休み……二週目か」
「そそ。なんか二十九日はダメなんだってさ」
「あの人、補習で夏休み学校缶詰めになればいいのにな……」
「雲雀くんは九十三先輩が嫌いなの?」
「いや、侑生、嫌いだと先輩でも無視するから。ツクミン先輩のことはわりと好き寄イッテ」
桜井くんのこめかみがシャーペンで小突かれた。桜井くんはいつもこれだ。
「いーじゃん、いまツクミン先輩いないんだし」
「だからなんだよ」
「照れ隠ししないでもって話」
雲雀くんは無言で、なんなら九十三先輩をわりと好きであることを否定しなかった。雲雀くんの他人との距離の取り方が分かってきた、雲雀くんにとっては近くにいることを許していることが「好き」の顕れらしい。そして九十三先輩もきっとそれを分かっている。
「……九十三先輩って、あんなだけど雲雀くんの扱いに手慣れてる感あるよね」
「扱いとかいうんじゃねーよ」
「ツクミン先輩、弟いるんだって。それじゃん?」
「弟さんいるの?」
「うん。ツクミン先輩、男三兄弟の真ん中だよ」
頭の中に九十三先輩の顔を思い浮かべる。考えてみれば、九十三先輩は、喋り方もその内容も軽薄だけれどその加減が絶妙だ。あれは弟としての要領の良さかもしれない。それでもってこの雲雀くんを (ちょっとだけ)懐かせているのは兄としての面倒見の良さの顕れのような気がした。
「……言われてみれば九十三先輩、すごく次男っぽいね」
「次男っぽいってなに?」
「……兄と弟の属性のいいところをちょっとずつ貰ったみたいな」
「兄と弟の属性ってなに?」
「イメージだけど、お兄さんは面倒見の良さとか奔放さで、弟は甘え上手とかかな……。あ、雲雀くんはそんな奔放って感じはしないんだけど」
雲雀くんがお兄さんだったことを思い出して慌てて付け加えた。でも雲雀くんは何も言わないので多分気にしてない……と思う。
「兄属性かー」桜井くんは頭の後ろで腕を組んで「じゃあ俺は一人っ子属性なのかな、一人っ子属性はなに?」
「……自由とか我儘とか」
「俺のイメージ酷くない?」
「桜井くんじゃなくてあくまで一人っ子のイメージだから」
「でも当たってんだろ。お前はふらふらふらふらしてて自由だよ」
そうして喋っているうちに三時を過ぎたので、キッチンに置いたままになっていたドーナツと和菓子を回収した。おばあちゃんはいなかったので、どうやら私達が勉強していることに気を使って黙って出て行ったらしい。
勉強道具を一度片づけてテーブルの上にドーナツと和菓子を置くと、桜井くんは頬杖をつきながら「ははーん」なんて頷いた。