ぼくらは群青を探している
 君達が灰桜高校普通科に進学すると噂が広まっていたからその手の連中は避けてとおったのでは? と言いたかったけれど、さすがにそれを口に出すほど頭は悪くない。


「三国みたいな大人しめ優等生がボケーッと教室にいたら二年になる頃には処女喪失してんじゃん?」

「しょ……?」

「昴夜、ちょっと黙れ」


 雲雀くんの静かな諫言で桜井くんは一度口を閉じた。


「……まあともかく、今年はまだマシだったけど、普段だったら危なかったんじゃねーって話。てか親に反対されてないの?」

「……別になにも」


 治ってくれればそれでいい――とまで(なま)(やさ)しいことは思われていないだろうけど、灰桜高校普通科というものに、両親の要望を左右する要素はない気がした。

 だから相談すらしていないし、連絡も寄越さないし、文句があれば手を回してくるだろうし、きっと問題はないのだろう。自分の中でそう納得した。


「ふーん。優等生の親って厳しいもんだと思ってたけど、意外と放任主義なんだな」


 頷く桜井くんとは違って、雲雀くんは黙ったままだった。

 そんな雑談をしていると、ペタンペタン、と廊下を歩く音が聞こえてきた。デジャヴだ。私は顔を上げたけれど、二人は顔を上げなかった。


「おーす。桜井、雲雀」


 扉から顔をのぞかせたのは、ピンクブラウンの髪をした男子だった。先週の訪問者が怪物だったのに対し、今度はちゃんと人間だ。しかも桜井くんと雲雀くんと変わらないような華奢な体つきで、品と甘さのある髪色によく似合う甘いマスクをしていた。学ランの丈は普通で、ただ同じ新入生にしては着方がこなれているから、多分上級生ではあるのだろう。

 平和的に声をかけられれば返事はするのか、二人も顔を上げた。ピンクブラウンの人はのんびりと教室に入ってきて、机の上に数学の教科書が広げてあるのを見て「ぶっ」と吹き出した。


「おいおい、桜井と雲雀で間違いないよな? なんで女子とお勉強会してんだ?」


 砕けた口調と態度からはいい人に見えた。桜井くんもそう感じているのか「うるせーな、関係ないだろ。なんか用?」と口を尖らせるだけだ。

 じっと見つめていると、その人もじろじろと私を見つめ返した。間近で見ると、その顔の綺麗さが余計に分かる。系統としては雲雀くんに近くて、アイドルみたいな顔をしていた。


「……これ、お前らどっちかの女か?」

「違う」素早く否定したのは雲雀くんで「ただ隣の席ってだけだ。見てのとおりな」

「あと新入生トップ」


 桜井くんの補足は蛇足に違いなかった。でもピンクブラウンの人は興味ありげに眉を吊り上げた。


「普通科なのに?」

「……そういうこともあります」


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