ぼくらは群青を探している
「確かに、こういうときに兄弟属性出るかも。ツクミン先輩に言われた、お前一人っ子なのに意外と気使うなって。俺はエンゼルリングが食べたい」

「気使えよ」

「英凜と侑生の前だもん。つか侑生、エンゼルリング嫌いじゃん」

「……三国はどっちがいいんだよ」

「……じゃんけんで決めよ」

「いいよ、先選べよ」


 ……こういうのを見ていると、雲雀くんはお兄さんだな。もう一度引くべきか悩んだ末、ココナッツがまぶしてあるのを選んだ。本当は値段の安いものを選ぼうと思ったけれど、ミセス・ドーナツなんて長い間行ってないし、残った二つのドーナツのうちどちらが安いかなんて分からなかった。


「さっきの話だけどさあ、英凜っていつもそうやって何人兄弟だからどうとか考えてんの」


 モッチモッチなんて聞こえてきそうな様子で、桜井くんはドーナツを咀嚼(そしゃく)する。美味しそうに食べるので、そのままCMにでも出れそうだ。例によって隣の雲雀くんが無表情なせいもあるかもしれないけれど。


「……いつもっていうか」ドーナツを呑み込んでから「兄弟っていう属性は、その人の性格を作るもののひとつでしょ? だから考慮する一要素っていうか」


 兄がどんなタイミングで母親に怒られるか見ているから、弟妹は同じ(てつ)を踏むまいとするとか。逆に、兄はいつも弟の世話を任されているから、他人の面倒を見るのが上手いとか。もちろん例外もあるけれど、血液型診断と違って、それはある程度合理的な推測だと思っている。


「他にも両親との関係とか、家での過ごし方とか……そういうのを聞いて、パターン化して、この人はどんな人で、どんなことが好きでどんなことが嫌いで、っていうのを分類する参考にしてるって感じかな」

「分類?」

「人を分類すると、喋りやすくなるでしょ?」

「なんだそりゃ」


 桜井くんと揃って、雲雀くんまでキョトンと目を丸くした。もしかしたら、これも正常な人はしないことなのかもしれない──なんて考えて、そんなことは知っていたことに気付く。


「……私は他人の表情とか、トーンを読めないし……」ゴクリと緊張で喉が鳴り「他人が、何を言われるとどう思うのか、そういうことが全然分からないから。その人がどんな人なのかをあらかじめ分類しておくことで、その人の都度の発言がどういう趣旨なのか、どういうことを言ってはいけないのかを考えてるってだけ」


 例えば、陽菜は弟がいるので面倒見がいい。でも同時に、長女らしい奔放さと、プライドの高さがある。だから、陽菜が面倒を見ようとしているときは、それを拒絶してはいけない。拒絶すると、陽菜は不機嫌になるから。

 ただ、何より陽菜について重要なのは「素直」「裏表がない」という分類項目だ。もし表情の変化をプラスマイナス五というメモリで表すことができるとしたら、陽菜はプラスマイナス二の範囲内で表情を動かすことはない。常に表情は喜怒哀楽に全振りされていて、内心が異なることはない。そのセリフだって、それこそさっきの表現を借りれば、いつだって最短距離で感情や思考を伝えてくる。

 だから、陽菜の隣はすごく楽だ。遠回しに何かを伝えられたって私に伝わるものなんてないけれど、陽菜は最短距離でボールを投げてくる。

 そして、現に私は、こんな発言をしたことで二人がどう感じているのか分からないのだ。桜井くんは目をぱちくりさせているから、上手く伝わらなかったのかもしれない。眉間に皺を寄せているから何か考え込んでいるのかもしれない。


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