ぼくらは群青を探している
「つまり……」先に口を開いたのは桜井くんで「これがプロファイリングってやつか!」


 ふ、と笑みが零れてしまった。やっぱり、期待通りといえば期待通りの反応だ。


「違うんじゃね」雲雀くんは眉間に皺を寄せたまま「それあれだろ、犯罪から犯人像を割り出すっていう」


 ただ、桜井くんはともかくとして、分かっているはずの雲雀くんがスルーを決め込むのはちょっと不思議だ。もしかしてデリケートな話題だと思っているのだろうか。


「英凜がやってるのも似たようなもんじゃん? 環境から人格割り出してんだろ」

「……そういわれるとそうか」

「いやそんな大層なものじゃないんだけど……」

「えー、俺もやりたい、そういうのやってみたい。なんかかっこよくない?」


 お茶を飲み、桜井くんは「例えば!」と雲雀くんを指さす。


「侑生はシスコンだから女子に優しいとか!」

「論理もクソもねーし、お前それ言いたかっただけだろ」


 雲雀くんはしかめっ面のまま、砂糖のついた指先をぺろりと舐める。今回の桜井くんはなぜ殴られなかったのだろうと疑問だったけれど、指が汚れているから配慮したのかもしれない。


「でも英凜ってすげーな。そんなゴチャゴチャ考えながら喋ってんの? それって疲れね?」

「……まあ、疲れる」

「あ、疲れるんだ」

「……でも学校で喋る人なんて決まってるし……。陽菜はあんな感じだから喋ってて疲れないし……」


 言われてみると、群青なんて喋ったことのない先輩もたくさんいたのに、不思議と疲れを感じたことはなかった。もちろん考えて喋りはするけれど……。


「……言われてみれば群青の先輩達と話すのは楽かな……。なんでかは分からないけど……」

「先輩ら、ほぼ脊髄(せきずい)反射で喋ってるからじゃね」

「脊髄反射ってなに?」

「喋るのに脳を介してないってことだよ」

「あー、確かにね、先輩らなんも考えてないよね」

「お前にだけは言われたくねーと思うけどな」


 雲雀くんの指摘は限りなく悪口に近い気がしたけれど、そこはかとなく否定はできない。でも九十三先輩が初対面で「パンツの色から」なんて言い出したのは本当に脳を介していないのだろうか……。考えた末の冗談として口にしたとしてもいささか問題がある気がするけれど、全く思考せず本能の赴くままに一年生の後輩女子にパンツの色を聞くのもどうなのだろう……。ただ九十三先輩は口調が軽薄で冗談にしか聞こえないから問題ないのだろうか……?

「でもそれっていいことじゃん? 裏でグダグダ考えて表では黙っとくみたいなさあ、そういうのは性格悪いじゃん」

「ごめんそれ私……」

「英凜は相手が傷つかないように色々考えてんじゃん? それは別によくね?」


 傷つかないように、というか、何も考えずに喋ると軽率に他人を傷つけるらしいから……と正確な説明はせずに黙っておいた。


「そういうのじゃなくてさあ、こう言っとけば上手く転がせるだろ的な。ああいうのよくないよな」


 ……転がされた経験でもあるのだろうか? 確かに桜井くんなら上手く転がせそうだけど……なんて失礼なことを考えていると、桜井くんは雲雀くんが持ってきてくれたお饅頭に手を伸ばしながら、頬杖と共に溜息を吐いた。


「あとさー、女子って何してほしいのかよく分かんないこと多くない? 俺何すればよかったの? みたいな」

「急に恋愛相談始まったな」

「いや違うよ、相談じゃなくて、なんだろ、振り返り?」


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