ぼくらは群青を探している
恋愛話であることは否定されなかった。振り返り、というと、桜井くんの元カノの話だろうか。
「そういえば自然消滅って言ってたね」
「そんな話したっけ? でもそう、いわゆる自然消滅ってやつなんだろうなーって思ったんだけど」
「なんで自然消滅だと思ったの?」
「中学のときに付き合ってたんだけど、廊下ですれ違ったら無視されたんだよね」
「気付かなかったとかじゃなくて無視なの? わざと目を逸らしたとか?」
「待って、なんでそんなに食いつくの?」
手を突き出してストップの動作をする桜井くんを見て、自分が身を乗り出していたことに気が付いた。大人しく姿勢を戻すと、雲雀くんに「興味津々(きょうみしんしん)だな」と笑われた。
「そんな面白い話ねーよ、コイツの恋愛|遍歴に」
「いや、こう、勉強になるかなと思って」
「俺の元カノ話から何の勉強するつもりなの?」
「……桜井くんの分析を深める方向で」
「え、分析ならもっと別の情報からやって」
「コイツはケータイないから元カノと喋るのは学校だけだったし、余裕で約束忘れるし、もちろん誕生日も忘れるしってんでフラれたんだよ。今更分析の助けになる情報ねーだろ」
「ああ……」
桜井くんの代わりに雲雀くんに説明されたけれど、非常に納得した。そっか、桜井くんは女子なら誰にでもそうなんだ……。牧落さんみたいに可愛い幼馴染だろうがカノジョだろうが、それは関係ないらしい。やはり本人が理解していないことは第三者から聞くに限る。
ただ、桜井くんは九十三先輩に海に誘われた話は日付までちゃんと覚えていた。やはり覚えていないのは興味がないものに限られるのではないだろうか。
「桜井くん、もしかして女の子に興味ないの?」
「え、普通に好きなんだけど。侑生がどんだけ美人でも侑生とキスとか無理なくらいにいは女の子が好き」
「俺だって願い下げだ、気色悪いこと言ってんじゃねーよボケ」
「だって本当に女の子とする約束覚えてなくない? 先週も牧落さんに怒られてたし……」
「俺がしたいって思わないと覚えられないの」
「でもカノジョとの約束も覚えてなかったんでしょ? 一般論だけど、少なからずカノジョと遊びに行くとかどうとかはしたいものなんじゃ……」
「てかカノジョってなに?」
なんだと……。いや、私だって定義づけることができるわけではないし、その意味では茫然とするのは自分を棚に上げるようで不適切かもしれないけれど、曲りなりにもカノジョがいたことのある人間のセリフとは思えない。でも桜井くんは心底不思議そうな顔をしていた。
「なんか付き合ってって言われたから付き合ったけどさー、結局なにすればよかったの?」
「なに……」
何をすればよかったのかと言われると……なんだろう。私にもさっぱり分からない。こんな相談はきっと牧落さんや能勢さんの専売特許だ、私では力不足も甚だしい。なにか理屈で考えようにも頭が真っ白になった。
「……雲雀くんのお饅頭を食べるために温かいお茶淹れてくる」
「あっ逃げた!」
「俺も手伝う」
「え、待って一人で残さないで」
二人はおばあちゃんが出かけたことに気が付かなかったらしく、真っ暗な居間と台所を見て「あれ、いない」「いつの間に……」と顔を見合わせていた。
「お昼から友達と出かけるって言ってたから」
「この間もそうじゃなかったっけ? マジで充実してんな」
「週末はいつも出掛けてんのか」
「そういえば自然消滅って言ってたね」
「そんな話したっけ? でもそう、いわゆる自然消滅ってやつなんだろうなーって思ったんだけど」
「なんで自然消滅だと思ったの?」
「中学のときに付き合ってたんだけど、廊下ですれ違ったら無視されたんだよね」
「気付かなかったとかじゃなくて無視なの? わざと目を逸らしたとか?」
「待って、なんでそんなに食いつくの?」
手を突き出してストップの動作をする桜井くんを見て、自分が身を乗り出していたことに気が付いた。大人しく姿勢を戻すと、雲雀くんに「興味津々(きょうみしんしん)だな」と笑われた。
「そんな面白い話ねーよ、コイツの恋愛|遍歴に」
「いや、こう、勉強になるかなと思って」
「俺の元カノ話から何の勉強するつもりなの?」
「……桜井くんの分析を深める方向で」
「え、分析ならもっと別の情報からやって」
「コイツはケータイないから元カノと喋るのは学校だけだったし、余裕で約束忘れるし、もちろん誕生日も忘れるしってんでフラれたんだよ。今更分析の助けになる情報ねーだろ」
「ああ……」
桜井くんの代わりに雲雀くんに説明されたけれど、非常に納得した。そっか、桜井くんは女子なら誰にでもそうなんだ……。牧落さんみたいに可愛い幼馴染だろうがカノジョだろうが、それは関係ないらしい。やはり本人が理解していないことは第三者から聞くに限る。
ただ、桜井くんは九十三先輩に海に誘われた話は日付までちゃんと覚えていた。やはり覚えていないのは興味がないものに限られるのではないだろうか。
「桜井くん、もしかして女の子に興味ないの?」
「え、普通に好きなんだけど。侑生がどんだけ美人でも侑生とキスとか無理なくらいにいは女の子が好き」
「俺だって願い下げだ、気色悪いこと言ってんじゃねーよボケ」
「だって本当に女の子とする約束覚えてなくない? 先週も牧落さんに怒られてたし……」
「俺がしたいって思わないと覚えられないの」
「でもカノジョとの約束も覚えてなかったんでしょ? 一般論だけど、少なからずカノジョと遊びに行くとかどうとかはしたいものなんじゃ……」
「てかカノジョってなに?」
なんだと……。いや、私だって定義づけることができるわけではないし、その意味では茫然とするのは自分を棚に上げるようで不適切かもしれないけれど、曲りなりにもカノジョがいたことのある人間のセリフとは思えない。でも桜井くんは心底不思議そうな顔をしていた。
「なんか付き合ってって言われたから付き合ったけどさー、結局なにすればよかったの?」
「なに……」
何をすればよかったのかと言われると……なんだろう。私にもさっぱり分からない。こんな相談はきっと牧落さんや能勢さんの専売特許だ、私では力不足も甚だしい。なにか理屈で考えようにも頭が真っ白になった。
「……雲雀くんのお饅頭を食べるために温かいお茶淹れてくる」
「あっ逃げた!」
「俺も手伝う」
「え、待って一人で残さないで」
二人はおばあちゃんが出かけたことに気が付かなかったらしく、真っ暗な居間と台所を見て「あれ、いない」「いつの間に……」と顔を見合わせていた。
「お昼から友達と出かけるって言ってたから」
「この間もそうじゃなかったっけ? マジで充実してんな」
「週末はいつも出掛けてんのか」