ぼくらは群青を探している
「いつもってほどじゃないけど、わりとそうかな。この間もお昼から友達と麻雀やってファミレスでドリンクバーの身ながらお喋りしてご飯食べて帰ったって言ってたし」
「片や期末を前にこんなに頑張って勉強してる俺達……!」
「桜井くんは結局してなくない?」
「なんでそんな酷いこと言うの?」
やかんでお湯を沸かす間、桜井くんと雲雀くんは「てかこの間も思ったけど、ばあちゃんちの台所ってもっと古いもんじゃね? なんか綺麗」「どう見てもリフォームしてんだろ」「あ、そっか」なんて室内を観察している。桜井くんに至っては我が物顔でテーブルにもついていた。
「桜井くん、ごめん、ちょっと立ってくれる?」
「ん? なんで?」
「お茶っぱがそこにある」
その後ろにある棚の上部を指さして「椅子使わないと届かないから」ともう一度立つように促すと、桜井くんが立つ代わりに雲雀くんが棚に向かって手を伸ばした。
「どれ?」
特に苦労もなく、その手が扉を開く。私の身長だと扉を開くのがやっとなのに、雲雀くんは悠々と中へ手を伸ばしている。そういえば、桜井くんの家で身長を測ったとき、一七〇・五センチだと言っていたっけ。
「……抹茶色の缶。少し太い円柱型の」
「……なくね?」
「え、あるよ」
雲雀くんの手は棚の中で動いているらしいけれど、どうやら目当ての缶は見つからないようだ。仕方なく、棚の中が見える位置に私も移動する。確かに、抹茶色の缶は見当たらない。
「あれ……」
死角にあるのだろうか、と足を半歩ずらす──と、椅子にぶつかってよろけてしまい、咄嗟に雲雀くんの腕を掴んだ。拍子にちょっとだけ雲雀くんの体が動いた。
「ご、ごめん……」
慌てて見上げると、ぱちくりとでも聞こえてきそうな、少し驚いた顔があった。
ドクリと、一瞬だけ心臓が跳ねた。
「んでどれ」
ただ、雲雀くんの顔はすぐに棚の中へと向き直す。私だけが雲雀くんの横顔を見つめてしまっていることに気付いて、慌てて私も顔を背けた。
「……あ、その、黄色い箱の奥の、抹茶色で……少し黒っぽく見えるの……」
狼狽えているのは私だけだ。ぎゅ、と雲雀くんに見えないように手を握りしめながら、もう一方の手で棚の中を指さす。そうやって私が伸ばした手の上を飛び越えるようにして、背後の雲雀くんの手が伸びる。
私と雲雀くんが同時に同じ場所に向けて手を伸ばしている、たったそれだけの光景なのに、腕と腕との僅か数センチの距離を凝視してしまった。その数センチは、私と雲雀くんの距離の近さと身長の差を意味している。男女にしては近い距離と、男女らしい身長差を。
雲雀くんの体温が背中から伝わってきているような気がしてしまって、ゾワリと背筋が震えた。同時に素早く手を引っ込めた。
そっと雲雀くんの顔を窺うと、なんでもないいつもの無表情でしげしげと缶を見ていた。
「なんか高級そう」
「……貰い物だから」
高級なのはその通りだけれど、貰い物でほったらかしにされていて、ついこの間開封したばかりなのにもう賞味期限が切れてしまいそうな代物だから気にしないでいい──本当はそう言いたかったのだけれど、早口で言えたのはそれだけだった。
「片や期末を前にこんなに頑張って勉強してる俺達……!」
「桜井くんは結局してなくない?」
「なんでそんな酷いこと言うの?」
やかんでお湯を沸かす間、桜井くんと雲雀くんは「てかこの間も思ったけど、ばあちゃんちの台所ってもっと古いもんじゃね? なんか綺麗」「どう見てもリフォームしてんだろ」「あ、そっか」なんて室内を観察している。桜井くんに至っては我が物顔でテーブルにもついていた。
「桜井くん、ごめん、ちょっと立ってくれる?」
「ん? なんで?」
「お茶っぱがそこにある」
その後ろにある棚の上部を指さして「椅子使わないと届かないから」ともう一度立つように促すと、桜井くんが立つ代わりに雲雀くんが棚に向かって手を伸ばした。
「どれ?」
特に苦労もなく、その手が扉を開く。私の身長だと扉を開くのがやっとなのに、雲雀くんは悠々と中へ手を伸ばしている。そういえば、桜井くんの家で身長を測ったとき、一七〇・五センチだと言っていたっけ。
「……抹茶色の缶。少し太い円柱型の」
「……なくね?」
「え、あるよ」
雲雀くんの手は棚の中で動いているらしいけれど、どうやら目当ての缶は見つからないようだ。仕方なく、棚の中が見える位置に私も移動する。確かに、抹茶色の缶は見当たらない。
「あれ……」
死角にあるのだろうか、と足を半歩ずらす──と、椅子にぶつかってよろけてしまい、咄嗟に雲雀くんの腕を掴んだ。拍子にちょっとだけ雲雀くんの体が動いた。
「ご、ごめん……」
慌てて見上げると、ぱちくりとでも聞こえてきそうな、少し驚いた顔があった。
ドクリと、一瞬だけ心臓が跳ねた。
「んでどれ」
ただ、雲雀くんの顔はすぐに棚の中へと向き直す。私だけが雲雀くんの横顔を見つめてしまっていることに気付いて、慌てて私も顔を背けた。
「……あ、その、黄色い箱の奥の、抹茶色で……少し黒っぽく見えるの……」
狼狽えているのは私だけだ。ぎゅ、と雲雀くんに見えないように手を握りしめながら、もう一方の手で棚の中を指さす。そうやって私が伸ばした手の上を飛び越えるようにして、背後の雲雀くんの手が伸びる。
私と雲雀くんが同時に同じ場所に向けて手を伸ばしている、たったそれだけの光景なのに、腕と腕との僅か数センチの距離を凝視してしまった。その数センチは、私と雲雀くんの距離の近さと身長の差を意味している。男女にしては近い距離と、男女らしい身長差を。
雲雀くんの体温が背中から伝わってきているような気がしてしまって、ゾワリと背筋が震えた。同時に素早く手を引っ込めた。
そっと雲雀くんの顔を窺うと、なんでもないいつもの無表情でしげしげと缶を見ていた。
「なんか高級そう」
「……貰い物だから」
高級なのはその通りだけれど、貰い物でほったらかしにされていて、ついこの間開封したばかりなのにもう賞味期限が切れてしまいそうな代物だから気にしないでいい──本当はそう言いたかったのだけれど、早口で言えたのはそれだけだった。