ぼくらは群青を探している
「でも花を貰って喜ぶ男子なんていないだろうし……その意味で牧落さんの認識不足だったっていうか……」

「あー、分かった、三国、お前は本当に黙ってろ」


 シッシとまるで野良犬のように手まで振られた。思わず唖然(あぜん)としてしまうほどぞんざいな扱いだ。もしかすると、雲雀くんの中で私は桜井くんと同列に成り下がってしまったのかもしれない。


「つかそんなことしてたらフラれんのも道理じゃね」

「いやフラれたつーか、えーっとね、だから幼稚園のときはそんなんだったんだけど、小学校に上がる頃には破談になったつーか」

「そんなお見合いじゃないんだから」

「でもそんなもんだよ。一年生になる頃には『そんな約束したっけ?』って言われてた」


 ……まあ幼稚園児の口約束なんてそんなものか。雲雀くんに黙ってろと言われたので黙ってお饅頭を頬張った。美味しい。


「つかお前、牧落のこと好きだったんだ。知らなかった」

「いやガキの頃の話だしね、好きだったとは……うーんでも男がそういうこと言うのカッコ悪いな」


 うーーーん、と桜井くんは長い唸り声をあげた。


「……結婚しようって言われても悪くないくらいには好きだったってこと?」

「悪くない……。なんかその言い方も俺が悪者っぽいな。むむ」

「でも男子はそういうものだって荒神くんが言ってた」

「アイツ三国に何吹き込んでんだ?」

「でも舜の言うことは男の真理かもな。男なんてみんな好きって言われたら好き」

「私、桜井くんのこと好きだよ」


 ゴホッと桜井くんが盛大に()せた。そのままゲッホゴッホと激しく咳き込む。


「……ごめん、冗談だよ?」

「ジョウダン!? 冗談でそんなこと言うの!? 三国が!? ゲッホ、動揺して三国呼びに戻っちゃった」

「……三国、お前声のトーン変えないのやめろ。マジなのか冗談なのか分かんねーから」


 雲雀くんにも白い目を向けられて少し反省した。どうやらいまは冗談を口にしていい場面ではなかったらしい。お詫びの印に、桜井くんのグラスに冷たいお茶を注いだ。


「……ごめん、言われてみたからつい実験したくなって……」


 桜井くんはすぐにそのグラスを手に取ってお茶を飲み干して「──実験って言った!」再び抗議した。


「……コイツ馬鹿だから。んなこと言って本気になられたらどうすんだ」

「それはちょっと……」

「いま俺フラれた!? なんで!?」

「牧落さんが桜井くんを好きらしいから、他人と確執(かくしつ)が生まれるような恋愛はしたくないっていうか……」

「カクシツ?」

「ああ、女子が好きな男は早いもん勝ちみたいにしてるヤツな」

「恋愛ってそういう頭でするもんなの? マジ?」

「あと本当に好きだと軽々しく好きって言えないと思うから、私が軽々しく好きって言うってことは冗談だと思ってくれて大丈夫」

「いまさり気なく俺に酷いこと言わなかった? ねえ? つまり俺のこと別に好きじゃないってことだよね? ……苦笑いやめろ」


 いつものおどけた口調が一瞬だけ厳しくなったせいでスッと表情を引っ込める羽目になった。桜井くんも怒らせてはいけないタイプかもしれない。


「もーやだよー今日、めちゃくちゃ俺のこといじめるじゃん」

「……いじめるのは好きな子だからかもしれな──」

「本ッ当にその冗談やめて。俺マジで怒るからね」


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