ぼくらは群青を探している

(2)画策

「みーくーにちゃんっ」


 終業式も終わり、夏休み前に成績表を配ります、というタイミングで、突然ガラガラッと隣の窓が開いた。今までの私ならびっくりしていたけれど、最近はよくあることなので慣れてきた。現に、そこには終業式にも関わらず相変わらずいつも通り好き勝手なティシャツを着た群青の先輩達がいる。

 その五人組の中でも一番近くにいる九十三先輩が「やっほー。あー涼し、廊下まで全部クーラーつけてくれたらいいのにね」」と、私の机に乗る勢いで身を乗り出した。……いや、もう体が半分乗っている。


「……こんにちは」

「三国ちゃん、俺達の成績見たくない? 見たいっしょ? 当ててみて?」


 何を? その手の中には「成績表 九十三圭次」と書かれた二つ折りの厚紙がある。……順位を当てろと?

「えー……」

「ツクミ、五〇番だったんだってよ」

「バッカ言うんじゃねーよ! 三国ちゃんに当ててもらうところだったんだよ!」


 背後で別の先輩がばらしてしまい、苦笑いをするしかなかった。いやそうでなくても苦笑いをするしかないけれど。普通科は普通科だけで順位が出るので、つまり九十三先輩は八〇人中五〇番だったという計算になる。

 ……で? という話だ。この学校の、三年次普通科で、八〇人中五〇番であるということがいい意味なのか悪い意味なのか、はたまたなんの意味も持たないのか、私にはさっぱり分からない。


「……おめでとう……ございます……?」

「三国ちゃんはー? 成績表見せてよ。あ、俺の代わりに見せてあげるね」


 要らない……とは断れずに九十三先輩の成績表を受け取る羽目になった。ただ私の成績表は手元にないので、九十三先輩はわざとらしく首を傾げる。


「……三国ちゃんの成績表は?」

「いま配ってる途中なんですけど」


 先輩達は揃って教室の前に顔を向けた。先輩達は時間構わず現れる (本当に構わないので授業中にも突然現れる)結果、今は一年五組の担任の先生が成績表を配っている真っただ中だ。

 そして、五人の視線を一身に集めてしまった先生は、さりげなく成績表を配るスピードを上げる。お陰で雲雀くんが呼ばれてから私が呼ばれるまで十秒とかからなかった。

 そして、私の成績表は席に着くやいなや先輩達に持って行かれて「すげー! 全部100ってなってる!」「九十点台のほうが少ない!」と回し見されている。

 新手の後輩いじめだろうか? 茫然とその姿を見ていると私の机から九十三先輩の成績表が奪われた。雲雀くんだ。


「あっおい雲雀! テメェに見せるつもりはねぇぞ返せ!」


 九十三先輩は手を伸ばすも、廊下から身を乗り出す程度ではたかが知れている。といってもお上品さの欠片もないので、先輩はすぐに足をかけて乗り込んできた。ガタガタッと私達の周りの席の子達は一斉に席を立って逃げた。

 そんな中で、桜井くんと雲雀くんはこぞって九十三先輩の成績表を覗き込む。ふわふわと金髪と銀髪が揺れながら小さな厚紙を覗き込むのは、猫がその狭い額を寄せている図のようだった。
< 233 / 522 >

この作品をシェア

pagetop