ぼくらは群青を探している
「……この英数は俺と三国のおかげで爆上がりってことですか」

「お前じゃなくて三国ちゃんだけどな!」

「え、すげー、ツクミン先輩、赤点物理しかないじゃん!」

「はいそこの昴夜くん、大声で赤点って言わない」

「……赤点って本当に赤いペンで書かれるんですね。カラフルな成績表なんて初めて見ました」

「そこの三国ちゃん! ナチュラルに煽らない!」


 九十三先輩の成績表の物理の欄には、事務的な赤い字で「七」と書かれている。満点が何点なのか疑わしい数字だ。

 その成績表は「はい、終わり終わり」九十三先輩にひょいと取り返された。


「そんなわけで俺達、三国ちゃんのお陰で成績爆上がった組でしたー」

「俺は?」

「誰がお前なんかに感謝するか! この鬼め! お前の成績表も見せろ!」


 雲雀くんの成績表をもぎ取った九十三先輩は、他の先輩達と揃って成績表を覗き込んだ。その顔は段々と渋いものとなっていく。


「……マジで噂通りのクソインテリだなお前」

「先輩達がバカなのでは?」

「よーし、表に出な。口のきき方から教えてやるから、先輩達が」


 九十三先輩は雲雀くんの首に左腕を引っ掛けているけれど、雲雀くんの頭をかいぐりする九十三先輩の右手と迷惑そうな雲雀くんの顔を見ていると、ただじゃれているようにしか見えない。ただ先生はじっとこちらを見ているので、先輩による後輩いじめの現場ではないかと疑惑を向けているのだろう。


「あ、つか三国ちゃん、ちゃんと昴夜から聞いた? 海行く話」

「……聞きました、けど」


 というか、先輩達はこのまま会話を続行するつもりだろうか? 一応、一年五組では終業式後のホームルームの真っ最中なのだけれど。


「三国ちゃんどんな水着買ったの? 昴夜に聞いても教えてくんなくってさあ」

「教えたじゃん! なんか服っぽいヤツって!」


 間違いではない。そして桜井くんが (曲がりなりにも男子なのに)女子の水着をその程度にしか把握していないことが分かった。……でも男子は女子の服装に疎いものだし、そういうものだろうか。


「つか、三国ちゃん、水着買いに行った日、人酔いで死んでたんだって?」


 遂に九十三先輩は椅子を引っ張ってきて雲雀くんの机と私の机の間に座った。何人かの子達が非難済みだったこともあって、先生は夏休み前最後のホームルームをあきらめたらしい。小声で「じゃあ登校日に……」と呟いてそさくさいなくなった。


「え……っと、まあ……」


 なんだかこうしていると私まで問題児であるようだ。……いや、先輩達と一緒にいるだけで問題児なのかもしれない。

 九十三先輩は雲雀くんの机に頬杖をつきながら「雲雀が気付いて介抱したんだろ? インテリのくせにスマートだよな」とニヤニヤ笑った。雲雀くんは無視だ。


「……九十三先輩、そういう話はどこから仕入れてくるんですか?」

「いやこれは昴夜(コイツ)に聞いた話」

「え、なんか言っちゃまずかった?」

「ううん、何も」


 それはただの確信だ。やっぱり、桜井くんから仕入れると”体が弱い”なんて情報にはならない。能勢さんが”体が弱い”なんて口にできたのは、やっぱりどこかに新庄が噛んでるから……。
< 234 / 522 >

この作品をシェア

pagetop