ぼくらは群青を探している
 そんな私を、蛍さんはどう思ったのだろう。一瞬だけその視線が私を見た気がしたけれど「ま、もともと三年だけ集めて話す予定だったからお前らはいい」とすぐに視線は外された。


「ただし、連絡はちゃんと見ろよ桜井」


 代わりに桜井くんがじろりとでも聞こえてきそうな目つきで睨みつけられたけれど、当の本人は悪びれる様子もなく「だってケータイないんだから仕方ないじゃないですかー。侑生に言って」……せめてもう少し形だけでも反省したほうがいい。確かに携帯電話がないのは仕方がないのだけれど……。


「じゃあお前夏休みの間中雲雀と離れんなよ。お前に連絡つかなかったら雲雀と連帯責任にするからな」

「やべー、一蓮托生(いちれんたくしょう)じゃん」


 ねー、なんて顔を見合わせるような動作をする桜井くんに対し、雲雀くんは渋い顔で「なんで俺がそんなお守しなきゃなんないんだ」とでも言いたげだ。ごもっとも過ぎる。

 それでもなんやかんや世話を焼いてしまうのが雲雀くんのお兄さん気質なところなのかもしれない……なんて考えていると「つかイチレンタクショウってどういう意味?」九十三先輩の声でとんでもない発言が聞こえた。蛍さんは額を押さえたし、雲雀くんは「納得の国語の点数ですね」と冷ややかだ。


「……九十三先輩、日常会話に支障をきたしていませんか?」

「失礼だな三国ちゃんは! きたしてねーよ!」

「俺は集会で話してることが半分も伝わってないんじゃないかって心配になってきた」

「安心しろよ伝わってるって。……時々なんて言ったか分からないことあるけど」

「お前ちゃんと補習でろよ。特に国語」

「やだよーだって英語しか要らねーもん。どうせ勉強するなら三国ちゃんに教えてもらいた──あー……」


 蛍さんはすくっと立ち上がると、再び九十三先輩の首根っこを掴んだ。といっても例によってティシャツを引っ張られているだけなので、蛍さんが本気で九十三先輩を引きずればティシャツが千切(ちぎ)れるだけだろう。それを懸念(けねん)したらしい九十三先輩は大人しく立ち上がり、蛍さんに首根っこを(つか)まれたまま「じゃーねー三国ちゃん、そういうわけだから、次は水着で会おうねー」と器用にも後ろ向きに歩き、引き()られるように教室を出て行った。苦笑いしている能勢さんも「じゃ、雲雀くんはちゃんとあとでメール見といて。で、桜井くんに伝えといて」と軽く手を振って他の先輩達と一緒にいなくなった。

 ……先輩達の挙動に、それこそきな臭さなど全く感じない。だからこそ、不安と疑惑が(つの)る。

 先輩達が新庄と手を組んでいたとしても、それは桜井くんと雲雀くんを群青に入れるまでの話であって、いまは関係を切ったとか……。でも蛍さんの言う「深緋のきな臭さ」だって、新庄を通じて得ていた可能性がある。内部の人間のリークほど確実な情報はないのだから……。そういう点を考えると、手を切るメリットはない……。


「三国、さっきからどうした?」


 訝しげな雲雀くんの声でハッと我に返る。声のとおり、雲雀くんの眉間には皺が寄っていた。


「能勢さんに見惚れてたんだろ。やっぱカッコイイよなー」


 しかも、さっきまで蛍さんが座っていたところには陽菜が座っている。いつの間に……と思うほど考え込んでしまっていたらしい。

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