ぼくらは群青を探している
 陽菜がいる場所で赤裸々に話すわけにもいかないし、どう誤魔化そうかと考えていると「ほらこれ!」と陽菜が勢いよく携帯電話の画面を突き出してきたので、杞憂に終わった。促されるがままに画面を見ると、バスケットボールを持って微笑む能勢さんがうつっていた。

 よりによって一番怪しい能勢さんの姿をこんな間近で見せられても……というのはさておき、能勢さんが部活に入ってるなんて話は聞いていないし、入ってなさそうだし、きっとこの間あった球技大会の写真だろう。試合終わりらしく、そのこめかみから汗が滴ってはいるけれど、その爽やかさはいつも通りで微塵も失われていない。本当にどこを切り取っても格好のつく人だ。……疑惑を抱いている今は、その隙のなさが少し不気味に思えるけれど。


「……なんでこんな写真持ってるの?」

「能勢さんファンの子が頼んで撮らせてもらったんだって。カッコ良すぎてもらっちゃった」

「……よかったね」

「英凜にもあげよっか」

「ううん、私は別に」

「なんで、能勢さんに見惚れてたんじゃないの」

「……そういうわけじゃなくて」


 どこかのタイミングで桜井くんか、せめて雲雀くんには相談しておきたいな……。私だけで考えても埒が明かないし、三人寄ればなんとやらとも言うし。こんなことなら試験前に二人が家に来ていたときに話しておけばよかった。

 でも桜井くんは顔に出そうだし、だから新庄のことも話してないんだし……。頬杖をついて、そのまま手の中で溜息を吐いた。本当に、分が悪い。


「ね、英凜」

「……ごめん、何の話?」


 また陽菜の言葉を聞き流してしまっていた。陽菜は「お前本当に人の話聞けよ!」と憤慨しながら「浴衣! 夏祭りの話!」なんていうけど、さっきまで能勢さんの顔の話をしていたのにいつの間にお祭りの話に……。でも陽菜がここに座ってるのは夏祭りの話をするためか、そっか……。


「マジで全く聞いてなかった? 浴衣着たいけど英凜は面倒くさがるって話してたんだよ」

「……いいじゃん、陽菜は着たら。私は面倒くさいから着ない」

「ほら、英凜はこういうヤツ」


 陽菜は足を組みながら頬杖をつき、呆れたような溜息を吐いた。


「みんなと一緒に何かしようって気がないんだよ。中学のときだって、女子みんな浴衣だったのに一人だけティシャツとショーパンだったし」

「それは中学一年の話じゃん。二年のときはちゃんと着たよ」

「あー、そういえばそっか。あれで笹部が英凜に告ったんだよな」

「いやその話……」


 とんでもない話題を慌てて止めようとしたけれど、時すでに遅しというやつで、「ササベ? 告った?」と気だるそうに机に上半身を載せていた桜井くんがガバッと勢いよく体を起こした。本当に犬みたいだ。犬ならきっと耳としっぽがピンと立ってパタパタ動いている。

 対する陽菜は手を鉄砲型にして「今はマジでただの面白話なんだけどさー」ともったいぶる。陽菜と桜井くんと雲雀くんは、いつの間にかすっかり仲良しだ。

 お陰で陽菜からは滔々(とうとう)と私の情報が流れる……。諦めながらも額を押さえずにはいられない。しかもそれは、私の数々の人生の間違いの中でも、直近では最大のものかもしれない。


「クラスの何人かで行ったんだけど、笹部ってヤツが英凜のこと好きだったんだよね。ま、英凜以外全員知ってたんだけど」

「…………」

「雲雀くん、その目なに」

「なにも言ってねーだろ」


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