ぼくらは群青を探している
「認識が甘い」雲雀くんが冷ややかに私のセリフを繰り返し「お前、フッた男に対してすげーこと言うな」

「フッたのは結果論であってその前日の出来事に対する認識の評価を左右するものじゃないから……」

「英凜、お前本当に可愛くてよかったな。ブスがそんな意味分かんないこと言ってたらぶん殴られるぞ」

「で、その笹部、どうしたの? つか灰桜高校にいる?」

「いるよ、特別科。アイツ勉強できたし。なんかよく英凜と点数張り合ってたよな」

「好きな女にテストの点数で張り合って絡むのダサくね」

「いやそれな。でも英凜も真面目だしそういう感じでいいんじゃねってあたしらは話してたんだけど、話してたんだけどなあー」


 まるでプレッシャーでもかけるように、私の肩に置かれたままの手に力が籠る。でももう終わった話だし、無理なものは無理なんだから仕方がない。


「つかその笹部の何がだめだったの? 夏祭り行くグループだったくらいには仲良かったんじゃないの?」

「そう、それなんだよ。まあでも笹部、別にイケメンじゃないしな」

「英凜ってメンクイなの?」

「さあ……」

「やっぱその笹部の認識が甘いところが気に食わなかったのか?」

「雲雀くん、やめて」


 からかうような口調の雲雀くんはいつになく楽しそうだ。存外、雲雀くんは他人の恋愛話が好きなのかもしれない。


「なにがって言われても……直感……?」

「三国らしくねーな」

「……そういう意味ではやっぱり話が合わないとかありふれた理由だったんじゃないかな……。笹部くんは私が勉強好きで真面目だと思ってたみたいだけど、私は別に勉強は好きじゃないし真面目っていうよりは規則に反抗してまで自分のやりたいことはないとかその程度だったし……」

「やっぱ認識の甘さじゃねーか」

「……そうかもしれません」


 雲雀くんを前に降参した。正確には私に対する解像度の低さとかそういう表現をするべきかもしれないけれど、告白リスクという文脈でいう『認識の甘さ』はそれど同義だ。


「てかあたし、桜井に聞きたかったんだけど」

「なに?」


 すっかり二人と仲良くなった結果、陽菜は桜井くんを呼び捨てだ。陽菜は仲の良い男子のことはニックネームか呼び捨てなので例外はない。


「胡桃ちゃんと桜井って付き合ってんじゃないの?」

「付き合ってないない」


 バタバタと桜井くんは激しく手を横に振った。なんだかさっきからコイバナばかりでこの二人がヤンキーだということを忘れそうになる。特に最近は群青の先輩達も見慣れてしまったせいで認識が鈍ってきた。


「なにそれ、そういう噂が流れてんの?」

「あー、まあ噂かな。男バスのヤツらが話してたんだけど、胡桃ちゃんが超かわいいのに普通科の桜井がいるからキツイみたいな。ほら、胡桃ちゃんが桜井くんに会いに五組に来てんの、有名だし」

「あれねー、本当に迷惑だよね。やめてほしー」


 桜井くんは再び気だるげな姿勢に戻った。実際、この間の勉強会のときの口ぶりといい、桜井くんはこの手の話を面倒くさがっているのだろう。


「別に胡桃がくるのはいいけど、そういう噂になるじゃん」

「まー、胡桃ちゃん可愛いからな。仕方ないよな」

「お前は牧落の何が駄目なんだよ」

「何が……。……趣味が合わない、とか……?」


 深く考え込むような仕草をしたわりにはあっさりとした回答だった。でも確かに牧落さんは少女趣味で桜井くんは何もかも少年な気がする。


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