ぼくらは群青を探している
それもそうか、と桜井くんの本能的な発想に納得し、カバンは持たずにノートだけ持つことにした。教室を出て扉を閉めるとき、背後からは「なに食う? いま俺お好み焼き食べたい」「このクソ暑いのに?」「いいじゃん、どうせお店の中は涼しいし」と聞こえてきた。お好み焼き、雲雀くんは文句を言ってたけど私は賛成だ、早く食べたい。お陰で少し速足になってしまう。
そうして、パタパタと上履きの音をさせながら生物教室から戻る途中「あ、えりー!」下駄箱前で呼び止められたと思って振り向くと牧落さんがいた。その肩にはラケットケースが、手にはローファがあるので、きっと今から部活へ行くのだろう。
「……牧落さん」
「胡桃でいいって言ってるじゃん、てか胡桃って呼んでよ。牧落さん呼びってなんかダサくない?」
ダサ……いのだろうか。その感覚は分からなかったけど、呼ばれる側の感性の問題といえばそうなので反論するところではない。
そして何より、脳裏にはついこの間桜井くんが口にした理屈が過った。本人からいいと言われているのに頑なに名前で呼ぶのを拒否するのは相手を好きではないし大して仲良くないと考えているから……。私と牧落さんが大して仲良くないのはそうなのだけれど、牧落さんがそれを気に病むとすれば申し訳ない気もした。
「……じゃあ……胡桃……ちゃん?」
「あたし、ちゃん付けされるようなキャラじゃないから! 群青の人達はちゃん付けするけど、あれ後輩女子だからってだけだろうし」
牧落さん──改め胡桃……、は明るく笑いながら「てか昴夜知らない?」今日も桜井くんのことを探している。
やはり牧落さん……、じゃなかった、胡桃は桜井くんのことを好きなのでは……。
「……桜井くんなら教室にいたけど」
「え、嘘。さっき行ったら、侑生に昴夜は英凜とどっか行ったって言われたんだけど」
それこそ嘘……! 胡桃から逃れようとした桜井くんは教卓の中にでも隠れたに違いない。それにしたって、雲雀くんも私に押し付けなくてもいいのに。
「……私は生物教室行ったけど、桜井くんと一緒だったの、教室出るまでだし。帰っちゃったのかな」
おかげで私まで下手くそな嘘を吐く羽目になった。あとで雲雀くんに抗議しなければ。
そしてその嘘のせいで牧落さんが眉を八の字にするものだから、こちらの罪悪感まで煽られる。桜井くん、本当にどうしようもないな……。
「……そういえば、牧──胡桃は、夏祭りはクラスの子と行くんだっけ」
更に下手な話題転換を迫られた。今からその桜井くんとお好み焼きを食べるなんて口が裂けても言えない。
「あー……うん。昴夜から聞いたの?」
「うん。……なんか、誘われないなと思ってたら友達と行くって言われたみたいな」
今度は嘘ではない。正確には「 (もしかしたら一緒に行くようにせがまれるかもしれないけど)誘われないなと思って (念のため確認し)たら友達と行くって言われた (から安心した)」だけれど、そんなことを口に出したら私と胡桃の関係に亀裂が入る。
しかも胡桃は「んー、だって昴夜、夏祭り行かなさそうだし。いつもの友達と行けばいいかなって」なんて言い始めるので、また言えないことが増えた。どうやら桜井くんは私達と夏祭りに行くことを話していないらしい。桜井くんと胡桃のことだから私には関係ないのだけれど、私を巻き込むことになるならやめてほしい。
「……そっか」
「てか英凜、そうだ、聞きたかったんだけど」
そうして、パタパタと上履きの音をさせながら生物教室から戻る途中「あ、えりー!」下駄箱前で呼び止められたと思って振り向くと牧落さんがいた。その肩にはラケットケースが、手にはローファがあるので、きっと今から部活へ行くのだろう。
「……牧落さん」
「胡桃でいいって言ってるじゃん、てか胡桃って呼んでよ。牧落さん呼びってなんかダサくない?」
ダサ……いのだろうか。その感覚は分からなかったけど、呼ばれる側の感性の問題といえばそうなので反論するところではない。
そして何より、脳裏にはついこの間桜井くんが口にした理屈が過った。本人からいいと言われているのに頑なに名前で呼ぶのを拒否するのは相手を好きではないし大して仲良くないと考えているから……。私と牧落さんが大して仲良くないのはそうなのだけれど、牧落さんがそれを気に病むとすれば申し訳ない気もした。
「……じゃあ……胡桃……ちゃん?」
「あたし、ちゃん付けされるようなキャラじゃないから! 群青の人達はちゃん付けするけど、あれ後輩女子だからってだけだろうし」
牧落さん──改め胡桃……、は明るく笑いながら「てか昴夜知らない?」今日も桜井くんのことを探している。
やはり牧落さん……、じゃなかった、胡桃は桜井くんのことを好きなのでは……。
「……桜井くんなら教室にいたけど」
「え、嘘。さっき行ったら、侑生に昴夜は英凜とどっか行ったって言われたんだけど」
それこそ嘘……! 胡桃から逃れようとした桜井くんは教卓の中にでも隠れたに違いない。それにしたって、雲雀くんも私に押し付けなくてもいいのに。
「……私は生物教室行ったけど、桜井くんと一緒だったの、教室出るまでだし。帰っちゃったのかな」
おかげで私まで下手くそな嘘を吐く羽目になった。あとで雲雀くんに抗議しなければ。
そしてその嘘のせいで牧落さんが眉を八の字にするものだから、こちらの罪悪感まで煽られる。桜井くん、本当にどうしようもないな……。
「……そういえば、牧──胡桃は、夏祭りはクラスの子と行くんだっけ」
更に下手な話題転換を迫られた。今からその桜井くんとお好み焼きを食べるなんて口が裂けても言えない。
「あー……うん。昴夜から聞いたの?」
「うん。……なんか、誘われないなと思ってたら友達と行くって言われたみたいな」
今度は嘘ではない。正確には「 (もしかしたら一緒に行くようにせがまれるかもしれないけど)誘われないなと思って (念のため確認し)たら友達と行くって言われた (から安心した)」だけれど、そんなことを口に出したら私と胡桃の関係に亀裂が入る。
しかも胡桃は「んー、だって昴夜、夏祭り行かなさそうだし。いつもの友達と行けばいいかなって」なんて言い始めるので、また言えないことが増えた。どうやら桜井くんは私達と夏祭りに行くことを話していないらしい。桜井くんと胡桃のことだから私には関係ないのだけれど、私を巻き込むことになるならやめてほしい。
「……そっか」
「てか英凜、そうだ、聞きたかったんだけど」