ぼくらは群青を探している
 頭の中にはテニスとかの個人競技がチームの勝利に結び付けられる形で行われる試合形式が思い浮かんだ。このイメージで正しいとしたらだいぶおかしい図なのだけれど、そういうことなのだろうか……。


「それは……なんのためにやるの」

「トラブったときに手打ちにする落とし所みたいなもんが見つからなくて、タイマン勝負で負けたほうが解散するとか。滅多にないけどな」

「……なんか最後の手段って感じあるね」

「本当に滅多にないからな。基本衝突するまで喧嘩なんかやんねーよ」


 そうこうしているうちに電車が停車した。が、ただ停車しただけならなんともなかったはずだけれど、乗っている人の量が量だ、隣の人に押されて法則以上に傾けば、ドン、と雲雀くんに体を預ける形になり、胸に飛び込んでしまった。

 ……これは、非常にまずい。浴衣とティシャツ越しに伝わる体温と感触に体がびっくりしているのを感じる。しかもそんな状態は簡単に俯瞰(ふかん)できてしまい、頭の中に浮かんだ光景で、ボッと火でもつけられたように顔が発熱した。今の私は、まさしくゆでだこのように真っ赤な顔をしているのだろう。


「紅鳶神社、紅鳶神社です。お降りの方は──」


 そんな私の気など知るわけもなく、電車は淡々とアナウンスしながら扉を開く。今度は外に出ようとする人の波に押し出される羽目になり、雲雀くんに抱きかかえられるようにして電車から降りた。というか、正直、自分がどうやって電車から降りたのか分からなかった。雲雀くんに肩を抱かれた感触しかない。


「……昴夜、はいるな。池田は見えねーけど、ケータイ持ってるからいいか」


 ロボットのように自動的に歩き出してしまった私の隣では冷静な声が聞こえる。雲雀くん、女の子というものの物理的扱いに慣れてるな……。電車内で照れているように見えたのは人の熱気で頬が上気していただけだろう。私だけ緊張して、馬鹿みたいだ。


「……そうだね。はぐれたら改札って話といたし」


 人混みのせいで肩と腕が触れる。熱を感じる。声が近い。そのどれもが私の体の熱を上げる。

 なにか話をしないと、この奇妙な熱に浮かされてどうにかなってしまいそうだ。とりあえず口を開いて、なにも話題が見つからなくて一度閉じて、こじつけのような連想をしてやっと話題を見つける。


「……そういえば、さすがに妹さんとお祭りに来たりしないの?」

「ん? ああ……」


 桜井くんがよく口にするシスコンネタで場がほぐれればいい、くらいのつもりだったのだけれど、雲雀くんは予想に反して少し口籠(くちごも)った。


「……三国に言ってないんだっけ」

「なにが?」

「……離婚して、母親が妹連れて出てってんだ。だから今は一緒には住んでない」


 ……思いもよらぬ回答に、顔に上っていた熱は急激に氷点下まで落ちたし、なんなら頭のてっぺんから爪先まで凍りついてしまった。全く知らなかった。最悪だ。ついでに雲雀くんが(うち)で「母親似」と答えたときの微妙な表情の説明がついてしまった。離婚して出て行った母親に似てるなんてどんな気持ちなのか、私にはさっぱり分からないけど複雑には違いない。なんなら、離婚の理由は知らないけれど、もしかしたらそれが父親か雲雀家との確執(かくしつ)の原因だったりするのでは……。

 とんでもない地雷を踏んだ自分を恥じた。片足が吹っ飛んでも文句は言えない。


「……ごめん……」

「別に、三年くらい前の話だし」


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