ぼくらは群青を探している
 言いながらも、雲雀くんは視線を虚空(こくう)彷徨(さまよ)わせた。口にした記憶のせいでなにかを感じたのだろう。それが何なのか、私には分からないけど。


「でも盆明けは母親の実家行くし、長期休みはたまに会ってる。妹と母親が来たら、仕事の都合も泊まるところも面倒で、俺が行くほうが楽だから」

「……そっか」


 どうしよう、この話、どう収拾(しゅうしゅう)をつけよう。収拾というか……話題の転換……? 本当に最悪だ、こういうことにならないために人の情報を常に整理しているのに。


「つか昴夜(こうや)は俺をシスコンって言うけど、離れて住んでるからメールするってだけ。別に家にいたらしない」

「妹さんケータイ持ってるの?」


 そこじゃない、そこじゃないぞ私。地雷を踏んだ狼狽(ろうばい)のあまり会話のための思考が上手く回っていない。でも雲雀くんは「母親の借りて打ってくる」と律儀に返事をくれた。本当に私は最悪だ。

 結局この状況をどうすれば──なんて惑っていると「ゆーき、えりー」と背後から桜井くんが追い付いてきた。救世主だ。

 ほっと安堵するのと同時に、スタッと、まるで空から降ってきて着地でもしたかのような足取りで、桜井くんは私の隣に並んだ。甚平には気持ち(しわ)が寄っている。


「もー、人多すぎ。池田は?」

「電車乗った時点で行方不明だった。お前が見失ったなら知らね」

「あ、メール来てた。改札前で合流しようって」

「あぶねー、俺はぐれなくてよかった。ケータイないから合流できない」

「お前は置いて行くから安心しろ」

「だからあぶねーって言ったんだよ」


 駅構内に人の熱気が充満していたせいか、外に出ると少し涼しく感じた。それでもまだ少し暑いので、扇子(せんす)を引っ張り出してパタパタと(あお)いで髪をそよがせていると、にゅっと桜井くんが(のぞ)き込むように顔を出す。その顔に向かってパタパタと扇ぐと、金髪をふわっと浮かせながら「あー涼しい」と気持ちよさそうに頬を緩めた。


「……胡桃のいうとおり、桜井くんって弟っぽいね」

「えー。英凜、誕生日いつなの」

「二月十八日……」

「え、全然俺のほうが年上じゃん。俺、九月二十日だもん。ちなみにねー、侑生と一緒」


 そんな偶然があるのか? (かつ)がれているのではないかと思ったけれど、頭には雲雀くんのメアドの文字列が浮かんだ──0920という数字が入っている。四桁の数字といえば誕生日と相場は決まっているので間違いない。


「……そんなことあるんだ」

「それが理由で仲良くなったみたいなところある」

「ないだろ」


 そうだとして二人は何がきっかけで仲良くなったのだろう。少し気になったけれど、陽菜を拾ったのでその話は終わった。

 陽菜は「もー、電車最悪だったね」とどこかで(もら)った団扇(うちわ)で風を呼ぶ。セリフとは裏腹に、肩につく程度のショートヘアが楽しそうに跳ねた。


「帰りもっと酷いんだろうなー。帰りは歩こ」

「池田と英凜がそれでいいならいいけど。浴衣だと歩けなくない?」

「電車よりマシマシ」


 そうやって駅からほんの一分歩いたところから、紅鳶神社までの道のりを照らすように屋台が並び始めていた。陽菜は「なに食べよっかなー」と早速屋台を物色し始める。


「お、英凜、りんご飴食べようぜ」

「やだ」

「お前そういうとこだぞマジで! 一人でも食べるからいいけど!」


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