ぼくらは群青を探している
 憤慨(ふんがい)した陽菜はカゴ巾着(きんちゃく)をぐるぐると振り回しながら「あっち!」とりんご飴と書かれた屋台を指さし、爪先も向ける。でもりんご飴は見た目ほどおいしくないのだ。


「ぶどう飴なら食べる」

「祭りなんだからりんご飴だろ」

「俺もりんご飴かなー。侑生も食お」

「中のりんごが不味(まず)いから要らない」

「あ、分かる」

「英凜と雲雀って似た者同士だな。雲雀だけ甚平着てないし」

「普通持ってなくね」

「桜井は持ってるじゃん」

「俺はじいちゃんが買ってくれたから。でもなんか今年着たら小っちゃくなったんだよなあ」


 屋台に並びながら、桜井くんはつんつるてんの(そで)窮屈(きゅうくつ)そうに引っ張った。もともと七分袖くらいのデザインだろうとは思うのだけれど、本人がそう言うのならそうだろう。


「桜井くん、背伸びたよね。最近測った?」

「え、マジ? 全然測ってない。侑生、背中くっつけて」

「やだよこんなところで」

「雲雀くんのほうが高いのは変わってないよ」

「差が縮まったかなと思って」

「雲雀くんも伸びてるよ」

「むむ。んじゃ帰って測ろ」


 桜井くんは困ったように下唇を突き出した。その手ではお手玉のように二つ折りの財布が跳ねる。


「身長なー、せめて一七〇センチは欲しいなー」

「桜井はチビだもんなー」

「池田がでかいんだろ! 俺と変わんねーじゃん!」

「まあ一六五センチはちょっと成長したな」

「ちょっと、だいぶ、かなり」


 桜井くんは不満そうに復唱しつつ、徐々に程度を上げた。隣では余裕の雲雀くんが鼻で笑う。


「でも桜井くん、いま陽菜と変わらないから、一六七センチくらいにいはなったんじゃない? 今日の陽菜は下駄履いてるし、桜井くんはサンダルだし」

「確かに……!」

「ってことは俺も伸びたな。一七三センチくらいありそう」

「見下ろしてんじゃねーよ!」

「ねー、桜井、英凜とあたしの写真撮ってよ」

「私はいいから」

「だからお前本当にそういうところ!」


 そうは言われても写真は苦手なのだ。桜井くんが陽菜のケータイで写真を撮った後に「俺もー」「んじゃ英凜と撮ってやるよ」「いやだから私はいい」「池田と撮ったんだから俺とも撮ってよ!」なぜか桜井くんとも写真を撮る羽目になった。雲雀くんは一人だけ終始無言だ。


「侑生も撮れば?」

「いや別にいい」


 甚平姿でりんご飴を(かじ)る桜井くんとティシャツ姿で突っ立っている雲雀くんとの落差がすごい。こんなにもお祭りの楽しみ方が対象的な親友がいるのかとさえ思える。


「……雲雀くん、ぶどう飴食べる?」

「……なんで?」

「なんか私達だけ食べてるから」

「雲雀って甘いもの嫌いなの?」

「別に嫌いじゃねーけど」

「むしろ甘党だと思ってた。ほら、この間もドーナツとお饅頭(まんじゅう)食べてたし」

「まあ普通に好きだけど甘党ってほどじゃない」

「じゃ一個あげるよ」


 ぶどう飴は三つ連なっているので、一個というあげ方ができる。はい、と(そで)を持ちながら差し出すと雲雀くんの口がきゅっと引き結ばれた。


「侑生、何照れてんの。気持ち悪ッ」

「照れてねーよ」


 声がいつもより数段冷ややかだった。でもそんなことを言われると私も照れるのでやめてほしい。


「私は食べかけ気にしないから」

「英凜、食べかけって言うのやめよ!」

「そうだぞお前! 男子憧れの間接チューって言えよ!」

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