ぼくらは群青を探している
桜井くんのいうとおり、多田くん(そのクラスメイト)は急に喚きだす。急にとは何かといわれても説明がつかないくらい、急に。友達とお昼ご飯を食べている途中にヒートアップして、よく分からないことを喚いている。桜井くんにいわせれば、そのほうがよっぽどおかしいらしい。
「ま、誰だってちょっとくらいおかしいもんだろ。俺とか侑生だってそうじゃん」
「……そう?」
「ちっちゃい頃はハーフでおかしいってよく言われたって話したじゃん? 今そんなこと言うヤツいないけどさ、それって結局ハーフがどんなもんなのかみんな知ってるから、物珍しいけどおかしくはないみたいな感じになってきただけで。侑生だって、あのピアス、小学生の頃から開けてんだから。頭おかしいってよく言われてた。中学になったら開けるヤツいるから、今はなんも言われねーけど」
なんなら俺の髪の色はずっとおかしいし、なんて言いながら桜井くんは前髪をつまみあげた。「あ、これ地毛だ」なんてピンと引っ張って見せる髪色は、私からは見えないけど、きっと栗色なのだろう。
「今だって、俺がなんでもかんでも忘れるのは侑生と英凜に言わせればおかしいじゃん? 侑生だって、あんなに頭いいのに俺らとつるんでるなんて頭おかしいぜ。永人さんだってあのロン毛おかしいだろ。ツクミン先輩だって英凜にパンツの話しかしないの頭おかしくね? 能勢さんだって、家クソ金持ちでクソ頭いいのに学校の屋上で平気で煙草吹かすくらい頭おかしいし。みんな自分が一番普通だと思ってるし、それと違う他人なんてどっかおかしいんだから、別に英凜ばっかおかしいなんて卑屈になんなくたっていいじゃん?」
みんなどっかおかしい、本当にそうなのだろうか。みんな自分が一番普通だと思ってる、本当にそれでいいのだろうか。それは平均とか凡庸という意味ではなくて、何も異常なところなんてない普通の人だという意味だと考えて、本当にそれで、いいのだろうか。
もしそれでいいなら、私も、見たものを覚えているのは当たり前で、他人の感情が分かるのはエスパーで、空気は吸うものでしかないと断言して、それで──。
「あれ、昴夜じゃん」
そのとき私達の会話に入ってきたのは、雲雀くんでも陽菜でもなく、胡桃の声だった。
私と桜井くんが揃って声のしたほうを向けば、屋台の列をはずれて、綿菓子片手の胡桃が知らない三人組と一緒にこちらへ歩きながら手を振っていた。いや、知らない三人組と思ったけれど、暗がりで分からなかっただけで、一人は笹部くんだった。
「なんだ胡桃か」
「なんだってなに。なんだあ、昴夜も来てたんだ。侑生の家でゲームでもしてるのかと思った」
「俺のことなんだと思ってんの?」
白地に、オレンジ色と赤色の金魚柄、アクセントに赤色の帯。水紋を模した円にはところどころラメが入っていて、街灯や提灯、月明かりに照らされるたびにキラキラと反射する。普段ツインテールの黒髪はお団子になって、水晶玉のような飾りのついた簪が差してあった。そんな胡桃の浴衣姿は、女子の私でも唖然とするほど綺麗だった。
でも、桜井くんは例によっていつもどおりだ。桜井くんに言わせればみんなどこかおかしいので、やっぱり桜井くんのこういうところはどこかおかしいのかもしれない。
胡桃と桜井くんがそうやって並んでいるのをじっと見ていると、胡桃が私を見てパチパチと何度か瞬きした。
「……え、もしかして英凜?」
「……どうも」
「ま、誰だってちょっとくらいおかしいもんだろ。俺とか侑生だってそうじゃん」
「……そう?」
「ちっちゃい頃はハーフでおかしいってよく言われたって話したじゃん? 今そんなこと言うヤツいないけどさ、それって結局ハーフがどんなもんなのかみんな知ってるから、物珍しいけどおかしくはないみたいな感じになってきただけで。侑生だって、あのピアス、小学生の頃から開けてんだから。頭おかしいってよく言われてた。中学になったら開けるヤツいるから、今はなんも言われねーけど」
なんなら俺の髪の色はずっとおかしいし、なんて言いながら桜井くんは前髪をつまみあげた。「あ、これ地毛だ」なんてピンと引っ張って見せる髪色は、私からは見えないけど、きっと栗色なのだろう。
「今だって、俺がなんでもかんでも忘れるのは侑生と英凜に言わせればおかしいじゃん? 侑生だって、あんなに頭いいのに俺らとつるんでるなんて頭おかしいぜ。永人さんだってあのロン毛おかしいだろ。ツクミン先輩だって英凜にパンツの話しかしないの頭おかしくね? 能勢さんだって、家クソ金持ちでクソ頭いいのに学校の屋上で平気で煙草吹かすくらい頭おかしいし。みんな自分が一番普通だと思ってるし、それと違う他人なんてどっかおかしいんだから、別に英凜ばっかおかしいなんて卑屈になんなくたっていいじゃん?」
みんなどっかおかしい、本当にそうなのだろうか。みんな自分が一番普通だと思ってる、本当にそれでいいのだろうか。それは平均とか凡庸という意味ではなくて、何も異常なところなんてない普通の人だという意味だと考えて、本当にそれで、いいのだろうか。
もしそれでいいなら、私も、見たものを覚えているのは当たり前で、他人の感情が分かるのはエスパーで、空気は吸うものでしかないと断言して、それで──。
「あれ、昴夜じゃん」
そのとき私達の会話に入ってきたのは、雲雀くんでも陽菜でもなく、胡桃の声だった。
私と桜井くんが揃って声のしたほうを向けば、屋台の列をはずれて、綿菓子片手の胡桃が知らない三人組と一緒にこちらへ歩きながら手を振っていた。いや、知らない三人組と思ったけれど、暗がりで分からなかっただけで、一人は笹部くんだった。
「なんだ胡桃か」
「なんだってなに。なんだあ、昴夜も来てたんだ。侑生の家でゲームでもしてるのかと思った」
「俺のことなんだと思ってんの?」
白地に、オレンジ色と赤色の金魚柄、アクセントに赤色の帯。水紋を模した円にはところどころラメが入っていて、街灯や提灯、月明かりに照らされるたびにキラキラと反射する。普段ツインテールの黒髪はお団子になって、水晶玉のような飾りのついた簪が差してあった。そんな胡桃の浴衣姿は、女子の私でも唖然とするほど綺麗だった。
でも、桜井くんは例によっていつもどおりだ。桜井くんに言わせればみんなどこかおかしいので、やっぱり桜井くんのこういうところはどこかおかしいのかもしれない。
胡桃と桜井くんがそうやって並んでいるのをじっと見ていると、胡桃が私を見てパチパチと何度か瞬きした。
「……え、もしかして英凜?」
「……どうも」