ぼくらは群青を探している
「え、全然気づかなかった! 英凜ってクールに我が道を行くタイプで浴衣とか面倒くさいって思ってそうって思ってたんだけど。浴衣超似合うじゃん、かわいー!」


 いや浴衣美少女コンテストグランプリですかみたいな胡桃に言われても……。胡桃は綿菓子を持っていないほうの手で私の肩をポンポン叩いて「どこで買った浴衣? いいなー、あたしもそういう花柄着たい!」と自分の浴衣と対極にある柄を誉めてくれるので、胡桃はやっぱり気遣いが上手くて、いい子だ。

 だから、この場での問題は、どちらかというと胡桃の後ろにいる男女三人組のうちの笹部くん……。中学二年の夏以来まともに喋ってないので気づかないふりをしてやり過ごしたかったけど「てか写真撮ろ、あたしデジカメ持ってきた。ねー、笹部、撮ってよ。あ、綿菓子持ってて」胡桃が白羽の矢を立ててしまったのでそうはいかない。笹部くんは「あー、いいけど」とそれほど(こころよ)くはなさそうに胡桃からカメラを受け取った。

 桜井くんはその様子を見ながら「はて……」と意味深に首を傾げるけど、胡桃が「ほらちゃんと近寄って! 写真入んないから!」と私と桜井くんの腕をそれぞれ自分の腕と組むので「胡桃、本当写真好きだよな」とその口から出るのは毒のない悪態に変わった。笹部くんは「行くよー」とこれまた快くはなさそうな声でシャッターを切る。胡桃が「ケータイも!」と続けて頼むので立て続けに二、三枚も写真を撮られてしまった。


「ありがとー」

「……笹部って、どっかで俺と会ったっけ?」


 笹部くんからカメラを受け取る胡桃の後ろで、桜井くんが首を傾げている。「笹部」という音にだけ覚えがあって顔に覚えがないから混乱しているのだろう。そして桜井くんが笹部くんの名前を知っている理由はただひとつ、終業式の日に陽菜から私と笹部くんの話を聞いてしまったからだ。

 その記憶が完全に想起されるとマズイことを口走られる──! どうにか誤魔化したかったけれど、私が下手に口を出すと私と結びつけてしまう危険がある。

 内心狼狽(うろた)えながら桜井くんと笹部くんを見比べていたけど、笹部くんが「さあ、ないけど……。人違いだと、思うけど……」と妙に自信なさそうな声で、なんなら少し視線を彷徨(さまよ)わせながら先に答えた。


「笹部、東中だよ。いま野球部だし、昴夜と接点ないでしょ」

「あー、ないな。マジで全然ない。てか英凜と同中──」

「うん、中二のときに同じクラスだった」


 桜井くんが思い出しそうになったのを察知して慌ててセリフをかぶせた。桜井くんは一瞬止まって「あー!」とでも言いたげにその口を丸く開けて、そして閉じた。偉い。

 が、胡桃はそうはいかない。「あれ、そうなんだ。全然元クラスメイトって感じじゃないね」と私と笹部くんを見比べる。


「英凜、昴夜と侑生と仲良いし、男子とも普通に友達のタイプなんだと思ってた」


 そうですね、二人と同じとまではいかずとも、外部からは笹部くんとそれなりに仲が良いと言われる程度の友達でした──なんて口が裂けてもいえない。


「そうでもない。三国、クラスの男子とあんま喋んなかったし。俺と川西くらいじゃねーの」


 当時の夏祭りメンバーの一人でもある川西くん……。この場にいなくてよかった、いたら関係者が揃い踏みで気まずいに違いない。


「てか三国ってあの桜井と付き合ってんだ、知らなかった」


 ……はい?

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