ぼくらは群青を探している
 ただでさえ気まずい状況なのに、笹部くんが意味の分からないことを口走ったせいで、笹部くんにますます変な視線を向ける羽目になってしまった。

 いやでも確かに、私と桜井くんが二人だけで並んでいるとそう見えなくはない……か……? 雲雀くんと陽菜も一緒に来ているなんて、笹部くんからしたら知らないことだし……。


「……雲雀くんと陽菜も来てるけど」

「うわダブルデートか」


 うわってなんだ……。げんなりしてしまって、否定する気が起きなかった。ただなぜこの遣り取りでげんなりとまでしてしまったのかは自分でも分からない。

 間に立っていた胡桃は「え? なに? そうなの?」と私達を見比べる。


「だったらちゃんと教えてよ!」

「いや付き合ってないけど……」


 桜井くんの声もどこかげんなりしている気がした。最近の桜井くんは胡桃と付き合っている噂ばかり聞かされているから、相手が私でも誰でも、いい加減にしてほしい話題なのだろう。

 そんな桜井くんをじろじろと見ていた笹部くんの視線が私に向いた。


「……池田はともかく、三国って桜井とか雲雀とつるむようになったんだ。普通科だし、なんか変わったな」

「二人とも高校に入るまで知り合いじゃなかったんだから、いま友達でいることが私の変化をなぜ理由づけるのか理解できないんだけど」

「え、いやだからさあ……」


 ああ、そうだ、思い出した。笹部くんはいつもこうして、私と会話が噛み合わないのだ。たとえるなら、私が投げたボールを、笹部くんはキャッチした後に、それを置いて、それなのにあたかも私が投げたボールだったかのような顔をして別のボールを持ち直して投げ返してくるだけなのだ。

 やっぱり“話が合わない”なんてありふれた理由で私達はクラスメイト以上になることはなかったのだ。なんだか一人で納得した。


「笹部がいうのは、英凜って昴夜とか侑生みたいな不良とつるむような子じゃなくてもっと真面目な子だったってことでしょ。でもそこは英凜のこと知らなかったあたしでも思うかも、なんでだろって」


 きっと私と笹部くんの間には微妙な空気が流れていたのだろう、間にいる胡桃が笑い飛ばした。

 でも、だから笹部くんは“認識が甘い”のだ。中学二年生のときにクラスにいた子達と桜井くんと雲雀くんは違うのだから。「不良」と(じっ)()一絡(ひとから)げにする、その分類と認識と評価が甘すぎる。

 笹部くんなんかより、二人のほうがよっぽど話が通じやすいし話が合うなんて、笹部くんは考えもしない。


「……さあ、隣の席だからじゃないかな」


 そういうのをわざわざ説明するのが面倒くさいから、笹部くんは面倒くさいのだ。

 その私の回答を、笹部くんは会話の放棄とみることができたのだろうか。眉を顰めていた笹部くんがもう一度口を開こうとしたとき「……なにこれ」フライドポテト片手に不機嫌そうな雲雀くんが戻ってきた。胡桃以外の三人は「ゲッ」とでも聞こえてきそうな顔で背後の雲雀くんを振り向き、そのまま飛びのいた。次は胡桃を見た雲雀くんが「ゲッ」と顔をしかめる番だ。


「なんだ牧落か……」

「なんだってなに、侑生まで。あ、侑生も写真撮ろうよ」

「いや俺はいい」

「池田は?」

「まだ並んでた。つかマジでなんの集まりだ、これ」


 雲雀くんの機嫌はすごぶる悪かった。もしかして並んでいる間に不機嫌になったのだろうか。


「なんかそこでばったり会って。つか結局誰なんだっけ、胡桃のクラスメート?」

< 256 / 522 >

この作品をシェア

pagetop